平成29年12月29日作成

 (予備調査レポート)

英単語習得に関わる学習方略の予備調査

林田 宏一(一般社団法人あかつき心理・教育相談室)

mgr.direct@avespro.com

 *本レポートは、来年度実施する『英単語習得に関わる学習方略の調査』の予備調査として実施した結果を、筆者のコメントを添えて作成したものです。 

 

*本調査にご協力頂いた方々の内訳は、平成29年7月の時点で、小学校で指導されている方8名、大学で指導されている方5名、教育関連企業勤務の方2名の合計15名です。ご協力頂きました皆様にはこの場を借りて、深く御礼申し上げます。

 

1.はじめに

 筆者が運営している「あかつき心理・教育相談室」は、主に学習困難を抱えるお子さんたちの支援に取り組んでいる団体です。そして支援を受けているほぼ100%のお子さんが、英語の学習にも困難を抱えています。特に「英語で何をいっているのか、さっぱりわからない」と訴える小学生のお子さんは悲惨です。話を聞いていると、小学生の英語の時間は、学習困難に対する配慮らしいものがある学校はほとんどないです。楽しいはずの英語の時間が、時間が過ぎるのを待つしかないのです。

  中学生になると、英語の学習困難は大きく二分されます。1つの困難は、先に述べた「英語を聞いて、何をいっているのか、さっぱりわからない」というもの、もう1つの困難は「英語の文字列を見て、何が書いてあるのかさっぱりわからない」というものです。そしてこの困難は2つ併せ持つ場合もありますが、当相談室のケースでは、いずれか片方の困難がより大きいケースが多いです。つまり英語の学習困難の質は、大きく二分されるということです。そして、このような困難の質の違いに踏み込んだ学習上の配慮はほとんどなされていないのが現状です。音韻への気付きが弱いのか、それとも文字列への気付きが弱いのか。音韻への気付きが弱いお子さんは、相対的に文字列への気付きが強いことの方が多いです。逆に文字列への気付きが強いお子さんは、相対的に音韻への気付きが弱いことの方が多いです。このような差は、学習に困難を抱えるお子さんだけでなく、誰もが持ち得るものです。このような差は「個人内差」と言われるものです。私たちはこの差を生かすことこそが、個人の学びやすさに着目した学習につながるのではないかと考えています。またこの差を生かした学習指導に関する研究や書籍等もすでにありますが、教科指導の立場からの学習方略の研究はまだまだ不十分だと考えています

 今回の調査では、英語を指導する立場の方に、単語を学習するときの方略をお尋ねしました。今回のレポートは、そのご報告です。

 

2.方法 

 英語教育に携わる様々な立場の方15名の方にお願いして、アンケート調査にご回答頂きました。皆様にお伺いした内容は以下の通りです。

 (1).アンケートの内容(属性回答項目省略)

Q1.ご自身が、初めて学ぶ英単語を学習するときに、どのような練習をされていたのか教えて下さい。

 Q2.指導されるお子さんたちに対して、初めて習う英単語に慣れ親しんでもらうために、どのようなことをされていますか。またはどのようなことをしたいとお考えでしょうか。

 

 3.結果

 3.1.Q1の回答

(2).音声中心

・発音がきちんとできるように、聞いた音を何度も言ってみる。

・基礎英語(ラジオ)

・何度も聞く。

・洋楽を聴く。

・声に出して言う。

・カセットを何度も聞く

 

(3).文字+音声

・スペルを書きながら発音練習をする。

・暗記カードで繰り返し発音する。

・書きながら発声する。

・映画の字幕を見る。

・発音しながら見る。

・音と文字を同時に確認する。

 

(4).文字中心

・単語を見て書く。

・何度も書く。

・単語帳をつくる。

・辞書の活用。

 

3.2.Q2の回答 

(5).主に聞く・話す

・できるだけネイティブの音を聞かせる

・音を聞く、文化に触れる。

・音声を繰り返す。

・音声を聞かせる。話す。

・なるべく発話させる。

 

(6).主に見る

・イラストを見せる。

・見本を見せる。

・使う場面を絵、写真とともに提示する。

・文字入りの絵カードを使う。

 

 (7).聞く・話す+見る

・映像や音声を使う。

・意味と音を結びつけることを大切にする。

・文字は見慣れること、絵本の聞き読みなどを通して、文字・単語を読めるという気持ちを持たせる。

 

 (8).その他

・実際にやることを中心にする。

・自信が持てるまで練習。

・発音しながら書かせる。

・音声と文字は分けて指導する。

・書く練習はフォニックス活用で(ある程度できるようになったら)。

・使う英語をしぼる。

 

4.この結果からわかること 

 予備調査の段階なので、分析的なことを述べるのは差し控えますが、指導者の立場の方にお聞きしたものなので、狙いがわかりやすい方略が多いように思いました。以下、気になった回答に少しだけ言及させて下さい。

 

(9).気になった回答

a.「音を聞く。文化に触れる」

  小学校教員の方の回答です。ただ習得させるのではなく、背景にある文化に触れるということを意図された回答のように感じます。背景にある情報にざっくり触れることは、いわゆる関連性を重視した学習の1つだと思います。後ろの資料でいうと「同時型方略」の1つだと思います。

b.「音と文字は分けて指導する」 

  大学教員の方の回答です。こうすると、「音韻への気付き VS 文字列への気付き」という構図がはっきり見えると思います。どちらが先か?個人の学びやすさの差に着目した指導につながると思います。私は個人的に音声重視だけがいいとは思いません。

 c.「使う英語をしぼる」

   大学教員の方の回答です。英語という教科を、子どもたちみんなにとって学びやすい教科にしていくために必要なことだと思います。ドリル形式の教材も作りやすくなると思います。少ない時間で効果的な学習ができるという利点もあると思います。

 

5.おわりに

  わたしたちは、すでに認知処理の個人内差に着目した学習方略の研究のために、認知検査の1つであるKABC-Ⅱ(Kaufman Assessment Battery for Children-Ⅱ)を駆使した英語学習困難の小中学生の支援事例を積み重ねています。この検査では、得意or 不得意な方略を推定すること、つまり個人内差の推定ができます。学習困難を抱えるお子さんの中には、認知処理の得意・不得意の差が大きいお子さんが少なくありません。この得意・不得意の差は、学習困難の要因の1つになることが知られています。しかしこれを逆手に取ると、得意な方略を生かした学習も提案することができます。これは「長所活用型指導」と言われているものです(長所活用型指導で子どもが変わるシリーズ参照,図書文化社)。

  しかし、実際の教科指導で生かしていくには、具体的な方略のことをもっと考えなければならないと感じています。今は学習困難のあるお子さんを実践の対象としていますが、私たちは子どもたちみんなの学びやすさのことを追求できたらいいなあと考えています。

 お忙しい中、ご協力頂きありがとうございました。

 

一般社団法人あかつき心理・教育相談室

林田 宏一

 

謝辞

長崎大学教育学部・大学院教育学研究科中村典生教授には、本調査内容について、設計段階から貴重なご助言を賜りました。深く御礼申し上げます。

 

*ご回答頂いた方で、お名刺を交換させて頂いた方、連絡先がわかっている方については、資料も合わせて後日メール添付にてお送りします。

*結果をまとめて、ホームページで公開するまでに時間を要しました。大変申し訳ありませんでした。

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