もうひとこと:2022年10月号「Brand-New人事System」取材後記 日本の会社員の年収が、この30年間上がっていないという報道は、今年になってメディアでよく見聞きするようになりました。実際に調べてみると、まさにその通りです。新卒の初任給もほとんど変わっていません。 ここ数年、IT系企業を取材するなかで優秀な技術者が外資系企業に引き抜かれてしまったという話を何度か聞きました。その対策として多くの企業は彼らの給与システムを見直し、高給で優遇する措置を取っています。 今回、取り上げたレガシードでも同様の引き抜きがあったことが、新制度「年俸合意書」導入の背景の一つにあります。ただし、同社がコンサル企業であることもあり、給与が青天井で上がる感覚を従業員に持たせながらも、企業として収益をしっかり確保するための仕組みで担保していることは特記すべきでしょう。同社への応募者は年間2万人に及んでいますが、この制度導入によってさらに拍車がかかるものと思われます。 もうひとこと:2022年7月号「Brand-New人事System」取材後記 新型コロナの影響により、モートワークを導入する企業が増えました。令和4年3月に政府が公表した令和3年度の実態調査によると、雇用型就業者で勤務先でリモートワークが導入されていると回答した人の割合は、前年度から約1ポイント上昇して40.0%、そのうち、リモートワークを実施したことがあると回答した人の割合は、前年度から約10ポイント上昇して61.4%に上ります(国土交通省等「令和3年度テレワーク人口実態調査」)。 今回、取り上げたアイリッジのようにオフィス削減・再編し、出社勤務と在宅勤務を併用するハイブリッド型の働き方を進める企業も増えてくるものと思われます。 私が教鞭をとる大学の講義もこの2年間は対面ではなく、Webによるオンデマンド授業でした。今年度から対面との併用となりましたが、受講生が200人などの担当科目は相変わらずWeb授業です。新型コロナが収束しても、Web授業の良い部分は活用していくことになります。学会出席等による休講などもなくなるでしょう。オンデマンド授業で予約アップロードしておけばよいので。また、レジュメや資料もWeb上で配布することもできます。私自身、今年度、対面授業では事前にWebにアップロードし、学生は必要に応じてパソコンやアンドロイドからプリントアウトして授業に臨んでいます。何が契機になって変革が加速するか分からないものです。 もうひとこと:2022年5月号「Brand-New人事System」取材後記 大学で社会保障法の講義をかれこれ14年ほど担当しています。カリキュラムでは、前期に公的年金制度と医療保険制度について学習します。毎年、学生には、社会保険制度の細々した仕組み以前に、給付と負担の問題について理解するように求めています。そのバランスが維持できなければ、制度は維持できなくなると。そこで話をせざるをえないのが、今の日本の少子高齢化の状況です。65歳以上が総人口に占める割合(高齢化率)は28%を超える一方、中学生以下の15歳未満がわずかに12%を超える程度。これでは「給付減/負担増」となるのは明らかであり、学生たちは驚愕します。前置きが長くなりましたが、今の日本では、出産奨励はタブー視されます。政治家が成人式等の公の場で口にしようものなら、袋叩きに遭うでしょう。今回、取材したヤプリの働き方支援「lily制度」は、本文でも触れたように妊活・不妊治療支援については、結婚することを是とする、あるいは出産を推奨しているわけではありません。しかし、そのように受け取る向きがないとはいえないでしょう。一企業が制度として導入するのは、かなり思い切ったことだと思います。私個人としては、他の企業が後に続いてくれることを期待します。ちなみに取材後、大学の講義の中でも話をしました。 もうひとこと:2022年3月号「Brand-New人事System」取材後記 ベーシックの評価制度の特徴は、ミッショングレード制を取り入れ、現在の能力ではなく、期待役割・ミッションで位置づけて結果を評価するところにあります。ジョブ型雇用の変形であるロール型といえるでしょう。ここでも何度か書いていますが、ジョブ型雇用を職務給制度とするのであれば、日本企業では、そのまま導入するのは無理がある、というのが私見です。その点、ロール型は非常に現実的な制度かと思います。ベーシックでは、同制度を2019年1月に導入していますので、ロール型雇用は、ジョブ型雇用を意識したものではありません。もともとリクルートグループが創業以来、採用してきた制度ということが知られていますが、今回の制度導入を提案・設計した執行役員 COOの林氏はリクルート出身であることで首肯しました。もう一つの特徴として挙げられるのは、ミッション達成ではコンピテンシーを非常に重視していることです。ベーシックの求める行動特性でなければ、ミッショングレード制は活きた制度とならないともいえるでしょう。この点について、執行役員 CAOの角田氏がコンピテンシー浸透のための取り組みを熱く語っていたのが印象的でした。 もうひとこと:2022年2月号「Brand-New人事System」取材後記 LGBTについては、欧米と比べれば社会的な認知度は、まだ決して高くはないと思います。ただ、社内でLGBTの社員が働きやすい職場環境をつくるべきと考える企業も7割に達していることを考えれば、一昔前とは隔世の感があります。私が思い出すのは、1981年に刊行された『小説流通産業』です。これは、後に『小説スーパーマーケット』と改題され、1996年には「スーパーの女」として伊丹十三監督によって映画化もされました。原作者は、元サミットストアの会長で執筆当時は住友商事から出向中の次長でした(転籍?)。小説は、オーナー経営者の親戚である元銀行員が主人公であり、彼の視点でスーパーマーケット業界の裏側を描いています。EDLP(Every Day, Low Price)や接客の他、業界ではままある不正在庫等がかなりリアルに描かれ、業界では従業員向けの教科書にもなったと聞いたことがあります。前振りが長くなりました。この小説のラストでは脇役で登場していた男性従業員2人が実は相思のLGBTで追いつめられるシーンが出てきます。初めて読んだ当時は「ビジネス小説で何これ、あり?」と意外に思った記憶があります。今、考えれば問題提起としては、まさに先見性があったということなんだと。そういえば、昨年12月、東京都の小池知事が同性パートナーを配偶者と同等に扱う「同性パートナーシップ制度」を2022年度内に導入する考えを示したという報道がありました。時代は変わってきています。 もうひとこと:2022年1月号「Brand-New人事System」取材後記 2020年4月1日より施行された「同一労働同一賃金」と相まってジョブ型雇用を導入する企業も増えつつあるようです。しかし、もともと従業員の職務遂行能力によるランキングシステム、職能資格制度が主流であった日本では、職務によるランキングシステムの本格的な導入は実情に合わない部分もあるといえます。すでに本誌の取材でいくつかの企業の実例を取り上げましたが、全面的にジョブ型雇用に踏み切った事例はありません。 今回のJ:COMの「キャリアバンド制」についても同様です。この制度は、かっちりした職務ではなく、一定の職務領域として割り振るところに特徴があります。 私が学生時代に読んだ本にこんな話がありました。某外資系企業に転職した方が、仕事中に消しゴムを落としたところ、拾ってくれた同僚から対価を求められたと。本来の自分の仕事ではないので当然というのが言い分です。基本的にチームで仕事をし、個々の従業員の仕事の領域の線引きが不明瞭な日本では、まずこの感覚が馴染まないのではないでしょうか。ジョブ型雇用を浸透させるには、こうした感覚そのものを何とかすることが必要だと思います。その意味で、欧米で行われているように職務内容、勤務地等労働条件を詳細に定めた「職務記述書(Job Description)」の作成を必須とし、労使双方が合意することが求められるのではないでしょうか。 もうひとこと:2021年12月号「Brand-New人事System」取材後記 今回のダイセルは20年ぶりの人事制度の改定になります。ジョブ型雇用が注目されるなか、タイミング的には、それも視野に入れたロール型の導入となっています。私見としては、非常に現実的な制度設計になっているのではないかと思います。職務ではなく、役割によるラダーシステムのほうが、日本企業における働き方には整合性があるというのが理由です。 それにしても、ジョブ型雇用が、政府が推進する職務給制度=同一労働同一賃金の導入という流れにもなっていますが、どうもしっくりきません。長らく続いてきた職能資格制度が年功的運用に陥って批判にさらされたのは確かです。しかし、その一方で労働経済学では、職能資格制度に起因する「遅い昇進」は、いわゆる「将棋の駒の肩」になぞらえたうえで、従業員のモチベーションを長期間にわたって維持するという経済合理性を認める研究もあり、私も同意見です。今の新型コロナに対する欧米と日本の施策や国民感情の相違を見てもそうですが、働くことに対する文化による違いは大きいと思います。 もうひとこと:2021年10月号「Brand-New人事System」取材後記 今回、三谷産業の定年制を事実上廃止した無期限の継続雇用制度を取り上げました。「高年齢者雇用安定法」の一部が改正され、令和3年4月1日から施行されていることは周知の通りです。70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化することを努力義務としています。三谷産業の継続雇用制度は、この改正法の内容よりも大幅に前進した取り組みです。 今、65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.8%(令和2年現在)、65歳〜74歳人口も1,747万人、総人口に占める割合は13.9%。12%程度の15歳未満人口よりも多いわけです。平均寿命が80歳を超え、健康寿命も70歳を大きく超えるなか、60歳定年制というのは時代遅れの感はぬぐえません。政府が雇用の延長を推進する大きな理由は、社会保障制度の持続可能性にあります。給付と負担のバランスが取れていなければ、制度の維持は困難であり、本音は、給付を減らし、負担(保険料、税金による拠出)を増やしたい、ということでしょう。しかし、高齢者も社会参加しながら生きていくということは、自身にとってプラスになるものと考えます。私は、本誌の記者のほか、社会保険労務士として開業していますが、周囲を見ても、70代後半で現役バリバリという方は珍しくありません。80代の方もいますし。クライアントの経営者の方も同じです。今後、三谷産業のような取り組みは増えていくことと思われます。 ところで、今回、私としては初めてのWeb取材となりました。慣れた方からすると、今更ながらですが、あまりの便利さに驚きました。本社が石川県ですから、私の事務所のある千葉県とは距離ではかなりの隔たりがあります。デュアルタイムでまったく移動時間が不要というのは、癖になりそうです。 もうひとこと:2021年6月号「Brand-New人事System」取材後記 IT、情報システム系の業界では、社内だけでなく、市場価値の高い人材の獲得・育成が急務となっていることは周知の通りです。AGS株式会社でも、こうした点を踏まえ、すでに2006年度には人事制度を改定。2007年度には、階層別育成体系を構築し、研修体系の充実も図っています。しかしながら、その後の企業の人材に対する上記の意識は加速してきました。今回の新人事制度の導入は、こうした背景があります。創業50周年を迎えることもあって、人事制度の背骨に当たる資格制度を中心に、評価制度、賃金制度、能力開発等、全般にわたる、かなり力の入った抜本的な改定となりました。本誌で私が扱ったこの記事事例でも、これまでで最もボリュームのある誌面となっています。新型コロナ下、対面での取材は、なかなか難しい状況にありますが、万全の対策のうえ、対応いただけたことに御礼申し上げます。 もうひとこと:2021年4月号「Brand-New人事System」取材後記 今回の取材では、ブックマークス両国スタジオにお昼過ぎの時間帯に伺いました。JR両国駅からわずか徒歩1、2分。共有スペースであるラウンジを利用されていた方は、20代の若い方から中高年の会社員と思われる方まで様々。空き教室では、明らかに電話で商用の話をされている会員もいました。シェアオフィスは、大手企業が会員となっていて、今後は新型コロナによる需要も増えてくると思われます。思い返せば、私自身、社会人で大学院に通っていた頃もあり、日中、仕事の合間に公共の図書館等は結構、利用したものです。もちろん、静粛な環境で。閉塞感が当たり前だと思っていたものですが、こうした居心地のよいコミュニティであれば、むしろ効率が上がっていたのでしょう。そこに着眼しただけでなく、まずはビジネスの場と仲間に広げていこうとする創業者の強い想いを感じました。私が80年代前半の学生時代に愛読していた『ドキュメント・サラリーマン』(日経新聞編集)に描かれた日本型雇用とは異質の世界です。アライアンス型雇用のもと、副業OK、退職者のカムバック制度、アルムナイ等、新しい会社と社員の関係を構築する大いなるチャレンジなのだと思います。 もうひとこと:2021年2月号「Brand-New人事System」取材後記 ウェルクスの創業者である三谷氏は、東京大学卒業後に就職した富士通を4年で退職し、ベンチャーに転職しています。東証一部上場まで成長させた経験を活かし、自身がベンチャーを立ち上げ、ウェルクスは2社目の起業となります。この経歴から、ふと思い出したのは、最近の東大生のキャリア感の変化についてのある記事でした。バブル期に就職した人は、かつては東大生の就職先ランキングでは、金融、損保、生保、電機等の大手企業や中央官庁が上位にあったことはご存じだと思います。しかし、今やコンサルティング会社が上位にランキングされているといいます。その背景にあるのは、転職を想定したキャリア感であり、実際のアンケート調査でも就職先を決める際に重視する要素は「スキル・経験」がトップに挙げられているとか。その意味で三谷氏は先達と言えるのではないでしょうか。 もうひとこと:2021年1月号「Brand-New人事System」取材後記 2020年4月1日から「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されていることは周知の通りです。施行に当たり、厚生労働省は、「パート・有期労働ポータルサイト」を設け、同一労働同一賃金の普及促進を図っています。この中で「職務分析・評価導入支援サイト」を併設し、外部専門家の無料派遣、セミナー等も実施しています。厳密な同一労働同一賃金に導入には、賃金制度を職能給ではなく、職務給にし、そのためには職務分析が前提であるのが理由です。昭和40年代、日経連が職能資格制度を考案する前に職務給を検討したことがあります。このとき、日本型のチームプレー重視の働き方では、個人の職務を特定することが容易でなく、断念したように記憶しています。最近、よく見聞きする「ジョブ型雇用」における賃金制度は職務給ということになるのでしょうが、大手企業、特に情報・通信系の製造業の場合、導入の趣旨はかなり違います。今回、取材した富士通のように、高度IT人材を採用するには、グローバルな市場価値を基準に処遇することが不可欠であり、そのために欧米では一般的な職務給(ジョブ型雇用)を導入するという話です。そもそも、働き方自体を変えない限り、職務給の導入が現実的ではないというのは、今も変わらないとい思うのですが。 もうひとこと:2020年12月号「Brand-New人事System」取材後記 私がよく利用する大手スーパーの中にノジマが出店しています。その大手スーパーにも自社の家電売場があるのですが、販売の仕方はかなり違います。以前、愚息が大学の寮に入るため、パソコン、周辺機器、テレビ等、家電一式まとめて購入することになりました。私自身は、あれこれお店を比較して購入するタイプでもありませんし、そもそも、家電関係の知識には疎いほうです。家内と息子本人は理系ということもあり、私などは一切、口を挟むこともなく、仕事柄、若い店員さんの接客をしっかりと観察させてもらったものです。とにかく接客には大いに感心しました。商品知識があるのは当然として、客がどういう状況で購入しようとしているのか、使用する環境はどうなのか、しっかり配慮してくれていることに気づきました。押しつけがましいところは、全くなし。さりげなく客の動きを観察し、会話を聞きながら、イメージしているんだなと。結局、商品はすべてノジマで購入しました。その時以来、ノジマの社員教育には関心を持っていたのですが、今回の取材で納得できました。なるほど「人材育成業」なんですね。ちなみに就職・転職のための社員のクチコミ情報サイトでは、在職社員からは「20代成長環境」で高い評価スコアが付けられています。 もうひとこと:2020年10月号「Brand-New人事System」取材後記 今回、取り上げたカオナビのサービスであるクラウド人材管理ツール『カオナビ』ですが、従業員の顔写真が並ぶシンプルな画面はかなりインパクトがあります。何より、人事だけでなく、現場でも情報共有し、モチベーション管理、チームのコミュニケーション活性化のツールになっているのは特記すべきでしょう。思い出したのは、本誌創刊の翌年である1992年に別冊で関わった『人事情報システムの導入事例集』。大手で導入する企業が増え始めたものの、データの一括集中処理では追いつかず、課題が多かったものです。何しろ、まだ、インターネットがほとんど知られていなかった時代。というか、太平洋の海底に光ファイバーケーブルの敷設が昼夜兼行で進められていた頃です。私は、90年から91年にかけて、社労士の開業資金を貯めるために、まさに光ファイバーを製造する工場で夜勤をしていました。そして開業後、すぐに本誌の取材記者に。コンピュータとネットワークを利用したITが普及し始めたのが、90年代の末です。最近、カオナビのように勢いのあるIT、ICT系ベンチャーを取材する機会が多いのですが、第4次産業革命といわれることに深く首肯します。 もうひとこと:2020年7月号「Brand-New人事System」取材後記 IT業界での人材確保がいかに難しくなっているか、ここ数年、取材するなかでも現場の声をよく聞きます。日本の旧来の年功的な処遇では、成果主義が徹底し、処遇面において魅力的な外資系企業には勝てないというのが、業界での認識となっているようです。思い切った処遇改善をした事例は、このシリーズでもすでに紹介しているところですが、今回のNECの「選択制研究職プロフェッショナル制度」や「新卒ジョブ型採用」も同様の視点に立った施策といえます。NECは、メーカー部門では就職人気企業ランキングでは4位と上位にあり(日経クロステック)、就職後も愛社精神旺盛な従業員は少なくないと思いますが、優秀な技術者であればあるほど、今や競合他社からの引き抜きの対象ともなっています。NECに限らず、守りの施策というより、むしろ、攻めの姿勢で人材獲得に臨む必要があるように思います。NECの「グローバル人材採用」は、そうした取り組みであると私はとらえています。 もうひとこと:2020年5月号「Brand-New人事System」取材後記 創業から短期間で事業を拡大し、従業員数を増やしてきた企業は、なかなか人事制度の整備にまで手が回らないのが常です。GMOペパボは、昨年12月に東京証券取引所市場第二部に上場しています。今回、同社は等級制度、評価制度、報酬制度を抜本的に改定していますが、こうした大きな節目が原動力になっていると思われます。人材要件を「作り上げる力」「先を見通す力」「影響を広げる力」の3つとし、各等級要件の軸として展開たことはユニークだといえるでしょう。従業員に分かりやすく伝える言語化は、とても重要です。「創造性」「先見性」「影響力」では、イマジネーションが働きにくい。あまり気にしない企業もありますが、創業者が「仲間たち」を大切にした想いを感じました。 もうひとこと:2020年4月号「Brand-New人事System」取材後記 ここ数年、採用の現場では人手不足が続いています。特に今回取り上げたBEENOSのようなIT系企業は、深刻な状況にあります。従業員にとって居心地のよい企業にするためのインナーブランディングに力を入れることも重要ですが、やはり、処遇面での満足度を無視することはできないでしょう。市場価値をにらんで給与水準を見直すという動きは、今後も続くものと思われます。 もうひとこと:2020年3月号「Brand-New人事System」取材後記 ライフネット生命の人事ポリシー、「挑戦と成長を促す人事制度」の起点となるのが、「グロース・マインドセット(経験や努力を通じて、人は成長できるという考え方)」です。取材中に頭によぎったのが、私が学生時代に散々、考えて答えが出なかった「仕事って何だろう?」という問いでした。就職活動を前に日本経済新聞社による『ドキュメント・サラリーマン』全4巻には、会社員の生き様が生々しく描かれ、何度も熟読したものです。しかし、自分がそこに身を置くことに迷いがありました。結局、就職した役所を半年で退職。20代は様々な仕事で転職を重ね、30歳直前で独立し、今に至っています。仕事というのは、グロース・マインドセットができる場の1つなんだと、今回の取材で改めて思い至りました。私の最初の就職先が、ライフネット生命のような会社であったなら、退職はしなかったかも、とも思いました。 もうひとこと:2020年2月号「Brand-New人事System」取材後記 昨年12月、日本生産性本部が「労働生産性の国際比較」の2019年版を公表しました。経済協力開発機構(OECD)のデータに基づく2018年の日本の労働生産性は、就業1時間当たり46.8ドル(購買力平価換算4,744円)でOECD加盟36ヵ国中21位。調査記録が存在している1970年以降、先進7ヵ国(G7)諸国でずっと最下位となっています。アメリカと比べると60%程度の水準。今回、取材したセゾン情報システムズの小山部長が指摘する、政府が推し進めてきた「働き方改革」で結果が出ているのは残業時間の削減くらい、とは、全くその通りでしょう。何のための残業時間の削減なのか。オフィスを追い出された後、喫茶店などで仕事を続けるという話もよく聞きます。徹底的な業務の効率化なくして労働生産性は上がらないことは明らかです。とはいえ、長年の慣例に流されるのは日本人の特徴ともいえるのでは。慣例・文化を変えることは本当に難しい。ここ数年、人事制度も含め、抜本的に諸制度を変え、業績アップという結果を出した企業を複数取り上げてきました。共通していることは、外部出身のトップが就任して大鉈を振るっているということでしょうか。あのゴーンさんもそうでしたね。 もうひとこと:2020年1月号「Brand-New人事System」取材後記 一昨年、長年、仕事で付き合いがあった知人が、ウツで会社を休業していることを知りました。ここ3年ほど、連絡を取ることもなかったので正直、驚きました。いつも闊達で精神的に追い詰められるようなタイプではないと思っていました。彼の職場の複数の部下の話では、新しいトップがワンマンであれこれと指示の細かい人だとか。彼が翻弄されていたといいます。家庭の事情ではなく、仕事でウツになったと職場の同僚は思っているのです。しかし、聞けば、健康保険で傷病手当金を受給しているというではありませんか。受給開始から1年6ヵ月で打ち切りなることは、彼らも知っているにもかかわらず。本人とは連絡がとれないため、詳細な事情は分かりかね、面識のある役員に電話をしたところ、迷惑がられました。結局、昨年、退職扱いに。今回、取り上げたFiNC Technologiesの従業員を健康と命を守る福利厚生制度「FiNC Wellness Box」。取材しながら、終始、頭に浮かんでいたのは、彼のことでした。同社の取り組みが多くの企業を啓蒙し、彼のような労働者がいなくなることを切に祈ります。 もうひとこと:2019年12月号「Brand-New人事System」取材後記 今回、取り上げたmedibaの新人事制度では、複数の目的を追求し、組織形態に縦と横の関係を持ち込んだ「マトリックス組織」の導入を目指しています。この組織は、一般的には、縦軸(列)と横軸(行)の2つの指揮命令系統を設け、2元的管理によって活動する組織のことと説明されています。取材中、ふと思い出したのが、今から25年前に執筆した本のこと。当時の労働省がビジネス・キャリア制度修了認定試験(ビジネス・キャリア検定試験)をスタートし、その受験テキストとして「人事概要」を担当しました。その中の経営組織論の部分で「マトリックス組織」について触れています。1960年代の米国航空宇宙産業で生まれた形態であるとか、職能や製品、あるいは地域における複雑な経営行動を円滑にさせることを目指すものとか、書いた記憶があります。日本では、早くからトヨタが導入して成功していることが知られていますが、他の導入企業は失敗例が多いとも。その意味でも、medibaの事例は思い切った取り組みだと思います。今後の動向が注目されます。 もうひとこと:2019年11月号「Brand-New人事System」取材後記 今回は、ALHの様々なユニーク制度を取り上げました。よく聞く話ですが、最近の若い人たちは社内イベントには、あまり参加したがらないといいます。ところがALHは社員の平均年齢が若い会社であるにもかかわらず、記事にあるように「One for all 制度」、特にBBQ部の参加人数は驚くべき数字です。単に経費を会社が全額負担するということではなく、多くの社員がコミュニケーションの場として楽しんでいるということなんですね。自発的につくられ、会社が運営に関与していないということもあるでしょう。こうしたことで社員のモチベーションが高くなるというのは、当然、離職率も下がります。また、アウターブランディングの手段と位置づけているところも非常に面白いと思いました。 もうひとこと:2019年10月号「Brand-New人事System」取材後記 90年代後半以降、今回、取り上げた東京エレクトロンのように職能資格制度の見直しをした企業は少なくありません。職務遂行能力を基準として社員を序列づけて処遇する職能資格制度は、もともとは育成型の能力主義を掲げて普及し、日本型雇用慣行を支えてきたものです。年功的運用は、バブル崩壊後は批判にさらされてきましたが、労働経済学の先行研究では、「遅い昇進」は社員全体のモチベーションを長く引っ張って士気を落とさないものとして一定の評価をしていました。職能資格制度を見直した多くの企業は、こうしたメリットを捨て去って実力主義、成果主義の制度に切り替えたところが少なくなかったように思います。かつて、日本の労務管理の特徴として人材育成が挙げられていました。大学の専攻を重視せず、白紙で採用し、企業が育て上げるというものです。社員のやる気を引き出しながら、育成していく。東京エレクトロンの新人事制度は、こうした日本の人事制度の良き点を温存しながら、グローバルな制度を目指したところに大きな特色があるといえそうです。 もうひとこと:2019年9月号「Brand-New人事System」取材後記 今回、取材したHPE(日本ヒューレット・パッカード)は、誌面にも書いたように「『健康経営優良法人2019 』 ホワイト500」に認定されています。本来、「職場における労働者の安全と健康の確保」と「快適な職場環境の形成」は、労働安全衛生法で定められた企業の責務でもあるわけですが、それがなかなか果たされていないのが現状ではないでしょうか。最近、職場の人間関係でうつ病で発し、退職を余儀なくされた知人がいます。その一方、私が社会保険労務士として関与している企業で、うつ病の発症歴がある軽症うつの人を採用しながら、本人も会社もWin-Winの関係になっているケースも目の当たりにしています。「社員が健康であることこそが、企業の発展につながる」、これはHPEの企業理念ですが、私自身、その思いを強くしています。 もうひとこと:2019年8月号「Brand-New人事System」取材後記 大日本印刷が出版印刷以外の分野に果敢に挑んできたのは、本文に書いた通りです。実は、私が独立系シンクタンクに勤務していた1980年代、コンピューター・サプライ分野を担当していたことがあり、大日本印刷を取材したことがあります。手元に残っている調査資料の刊行が89年8月となっていますので、たぶん取材時期は6月か7月くらいだったと思います。ちょうど30年前になるんですね。83年11月にICカードの開発を発表し、当時、すでにトップメーカーになっていました。今回、取材に伺う際、市ヶ谷駅から左内坂という結構、急で長い坂を上っていたとき、ふと思い出しました。右側にあったビルが取材場所だったことを。懐かしさを感じる取材でした。 もうひとこと:2019年7月号「Brand-New人事System」取材後記 JR貨物の今回の新人事制度は、50年ぶりの抜本的改革になります。国鉄分割・民営化後も30年以上、改革をなしえなかったことを考えると、制度改革に取り組んできた方々にとって、感慨深いものがあるのではないでしょうか。その立役者である石田会長は、日本貨物航空や公益財団法人がん研究会の経営を立て直した、まさに経営のプロです。日本郵船時代は若いときから労務担当の経験もあることから、人事制度に手をつける前に経営改革を断行し、鉄道事業の黒字化を優先させたといいます。そのうえで労働組合と団体交渉を重ねて人事制度改革は実現しました。とはいえ、労働組合は7つ、1つの組合と40回以上も団体交渉してきた担当者の苦労には頭が下がります。私事ながら、私の叔父は高校卒業後、旧国鉄に就職、JRになってから駅長で定年退職しました。私が小学生6年生のとき、夏休みに1人で父の岡山の実家で過ごしたとき、1週間ほど、叔父夫婦の住む国鉄官舎に泊まったことを思い出しました。 もうひとこと:2019年6月号「Brand-New人事System」取材後記 先日、政府が高齢者が70歳まで働けるように雇用確保を図る方針を固めたことが報じられました。現在、高年齢者雇用安定法で、企業に65歳までの雇用確保措置が義務づけられていますが、多くの企業は60歳を定年とし、それ以降は嘱託などの正社員以外の形態で雇用を継続しているのが現状です。今回、取り上げたTISの65歳定年延長は、65歳まで正社員とし、それまでと同じ評価・報酬で処遇するという先駆的な取り組みといえます。単に定年年齢を延長しただけではなく、キャリアデザイン研修を実施する一方、どうしてもドロップアウトしてしまう社員に対しては転身プロセスも整備。また、加齢による健康管理にも今まで以上に注力するなど、幾重にも施策を巡らしている点に注目すべきでしょう。企業風土、現行の人事制度などの違いから、同様の取り組みをすることは簡単ではないと思われますが、今後、増えていくことを期待します。 もうひとこと:2019年5月号「Brand-New人事System」取材後記 業界に差はあるものの、景気の改善とともに人手不足はかなり深刻な状態になっています。コールセンターやコンタクトセンター業務を主体とする業界もその代表格といえるでしょう。2018年4月の改正労働契約法による契約社員の無期転換化が、他の業界よりも積極的に実施されていることからもうかがえます。今回、取り上げたベルシステム24では、それに加え、キャリアパスの新設、賞与制度の導入など、「人材の囲い込み施策」まで踏み込んだところに特徴があります。3万人を超えるコミュニケーターで業務が支えられているからに他なりません。その人数の多さゆえ、今回の制度導入では、フィジビリティ・スタディまで実施し万全を期しました。それでも、コミュニケーターの3〜4割は派遣社員として顧客企業に出向いているため、制度の周知を図るのに相当の苦労があったとか。あらためて人事担当者の大変さを知りました。ちなみに、本誌では紹介していませんが、ベルシステム24は、2018年10月には、それまでスキル不足で採用を見送っていた人材を確保し、即戦力化するための就業支援施設「SUDAchi(すだち)」を開設するという取り組みも行っています。 もうひとこと:2019年4月号「Brand-New人事System」取材後記 最近、テレビCMで見かけることが多くなった就業不能保険(ディサビリティ保険)ですが、団体保険となると、日本では、まだまだ未成熟の市場だといえます。傷病の治療費のための入院保険、がん保険、傷害保険や死亡時の生命保険には当たり前のように入っていて、それだけで安心しているのが一般的ではないでしょうか。傷病などでずっと仕事ができなくなったとき、どうするのか。あまり考えないのが日本人なのかもしれません。社会保障制度としては、業務上あるいは通勤途中の事故による障害であれば、労災保険から障害補償年金が障害等級に該当するかぎり支給されます。また、業務外の事故による障害の場合も厚生年金や国民年金から障害年金が同様に支給されることになっています。しかし、金額として十分といえるか、という疑問もありますし、そもそも認定されるとは限りません。一昔前、CDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)が流行ったことがあります。定年退職後の社員の生き方も含めて、キャリアデザインを在職中に考えてもらうというものでした。団体就業不能保険は、本来、このなかに入っていておかしくないように思います。今後、ゼブラのように制度化する企業が増えることを期待しています。 もうひとこと:2019年3月号「Brand-New人事System」取材後記 働き改革の影響もあり、副業・兼業を許可する企業も増えつつあります。ただ、今回、取り上げたネットワンシステムズの事例は、自社の社員に複業を認めるだけでなく、他社の社員を複業先として受け入れるというところがユニークです。自社の社員を外部の環境で研鑽させることに加え、外部人材によって自社の活性化を図る、という欲張りな制度といえるでしょう。とはいえ、受け入れ先の企業でも副業を許可していることが前提になります。日本のように、まだまだ副業許可が浸透しているといえない状況では、副業・兼業を認めている企業と提携するなどの工夫が不可欠になると思われます。今後、こうしたサービスを提供する企業も増えてくるのではないでしょうか。 もうひとこと:2019年2月号「Brand-New人事System」取材後記 残念ながら、私は自動車の免許を持っていません。休肝日のない飲べえなので、むしろ免許がないことでトラブルに遭わずにきたとも言えそうです。自動車業界にはかなり疎い私ですが、業界は100年に一度の大変革期にあるとか。クルマに対する価値観も「所有」ではなく、「移動手段」へと大きく変わりつつあります。今回のパーク24の新人事制度もこうしたこと踏まえ、グループの総合力を融合させる狙いがあります。等級制度、評価制度、賃金制度など、抜本的な改定は、その想いが伝わるものでした。ところで、私の愚息がちょうど今、教習所に通っています。社員の子供が普通自動車免許を取得した際の祝金については、正直なところ、「何と気の利いた制度なんだ!」と思いました。 もうひとこと:2019年1月号「Brand-New人事System」取材後記 本誌6月号で人事考課の評価フォーマットを廃止したアドビジステムズの事例を取り上げました。その理由には、考課者である上司が評価のために本来、最も重要であるべき業務から引き離されるという点が挙げられています。人事考課において、ほとんどの考課者が感じていることだと思います。同社では、複雑なプロセス、フォーマットへの記入、無駄な承認者を撤廃したことによって生じた時間を対面でのフィードバックに充てました。評価の納得性を高めたことが、結果的に業績向上に結びついたとみることもできます。今回、取材したAJSも、Excel利用システム「P-TH」によって省力化された時間は育成に向けるべきだとしています。先だって、公益財団法人・日本生産性本部が、相変わらず日本の2017年の労働生産性が主要先進7ヵ国(G7)で最下位だったと発表しました。長年の慣例で当たり前になっている業務が、実はなくても困らない。むしろ、他の業務を阻害していることもあるものです。自分自身を省みても、こうしたことを深く考えない気質があることは否定できません。 もうひとこと:2018年12月号「Brand-New人事System」取材後記 今回のトレンドマイクロの新人事制度は、ここ数年、導入企業が増えつつあるユニークな取り組みをセットで入れた点に特徴があります。その視点は、バラバラではなく、“Be Yourself”実現のためということに集約されています。根幹には、社員の成長が組織の活性化につながるという考え方があり、それが「アルムナイ(卒業生ネットワーク組織)」で実現することになります。今後、この構想がどのように進捗していくか、注目していきたいと思います。 もうひとこと:2018年11月号「Brand-New人事System」取材後記 10年ほど前に「2007年問題」が話題になったことがあります。団塊の世代が2007年から60歳、2012年から65歳を順次迎え、退職していくことで高度なものづくり技能が喪失してしまうことへの懸念でした。昨今、東京オリンピックを前にメイド・イン・ジャパンを自画自賛するテレビ番組が多く見られますが、現実には、逆に深刻な状況になっていると思うのは私だけではないでしょう。今回、SCSKの「シニア正社員制度」を取材するなかで改めて感じました。 もうひとこと:2018年9月号「Brand-New人事System」取材後記 今年は、台風の発生数は過去2番目に早いペースだとか。テレワークが注目され始めています。今回、取り上げたブイキューブは、すでにこうしたBCP(Business Continuity Plan)で活用しています。どうも「働き方改革」という政府の取り組みもピントがぼけて、国民には十分に理解されているようには思えません。やはり、実際に制度を導入し、実践している企業の事例をメディアを通じて周知するのが効果的なのではないでしょうか。企業だけではなく、働き方改革の影響を強く受ける家族の理解にも目を向けるべきかと。ブイキューブは、Web会議サービスの国内最大手です。テレワークに不可欠なツールとして、「V-CUBE」の普及を通じて今後もテレワークの浸透に貢献していただくことを期待します。ところで、今回の取材で、30年ほど前に行った「郡上踊り」を思い出しました。夜通し雨の中を踊る老若男女。特に若い人たちは、まさに「水も滴る…」でした。お店で味わった「うるか」の味は、今も超えるものを知りません。 もうひとこと:2018年8月号「Brand-New人事System」取材後記 人事制度の改定は、処遇などにおいて、現状と比べてマイナスの影響を受ける社員もいるものです。改定が大きくなればなるほど、その傾向があると思われます。今回、伺ったニチレイフーズの15年ぶりとなる改定も、社内的に賛否両論があったといいます。モチベーションを下げないようにいかに制度改定していくか。企業の規模、業種を問わず、大きな課題だといえます。人事担当者としても気骨が折れるところですが、お話を聞いていてよく伝わってきました。 もうひとこと:2018年5月号「Brand-New人事System」取材後記 1990年代、本誌で評価制度については何度か特集を担当したほか、別冊の単行本でも関与したことがあります。そんなこともあって、その後、社会人で大学院に進学する際、研究計画書では評価制度をテーマにしました。ところが、先行研究がほとんどなかったことからボツ。実際の修士論文は別のテーマに。思い出深い評価制度なのですが、「納得性」というのがキーワードだと考えてきました。かつて360度評価が注目されたのもそこなのでしょう。いくら緻密な制度が作られ、考課者訓練がしっかり実施されても、本人が納得しなければモチベーションは上がらないのですから。今回、取り上げたアドビシステムズの「Check-In」は、まさにこの点について答えを出してくれた感があります。取材していて、すっと胸に落ちるものがありました。 もうひとこと:2018年4月号「Brand-New人事System」取材後記 キャスターが提供するサービス「Caster biz」を利用する顧客は大半が中小企業であり、人手不足の打開策として、このオンラインアシスタントサービスにたどり着いたと言います。中小企業では、バックオフィスの担当社員が退職した場合、次に人が採れない状況にあるわけです。そもそも、利用する側には「働き方改革」という認識はない、というのが中川社長の考えです。オンラインアシスタントは、自社の社員ではないため、確かにそうなのでしょう。しかしながら、キャスターで直接雇用されている社員の働き方は、育児や介護との両立に加え、生産性向上という点でも本来、働き方改革が実現すべき方向性にかなっていることは間違いありません。最近、長時間労働の是正も含め、「働き改革」という言葉だけが躍っていると感じることがあります。今一度、原点から考える必要があるように思います。 もうひとこと:2018年3月号「Brand-New人事System」取材後記 長年、企業の人事制度を取材し、また、私自身も実務家(社会保険労務士)として制度の構築に関わっていると、企業文化と人事制度が密接不可分であることをよく感じます。今回、IDOMで執行役員の北島氏のお話を伺い、その感を強くしました。ガリバーは、創立以来、チャレンジングに事業を拡大してきました。にもかかわらず、今以上に社員が「挑む人」になるべく企業文化の変革を目指すことを打ち出し、社名までIDOMに変更したのはそこなんですね。単に人事制度だけを変更するだけでは、現状を変えることはできないということです。タクシー配車アプリ「Uber」の話をされたときの北島氏の悔しそうな表情が印象に残っています。 もうひとこと:2018年2月号「Brand-New人事System」取材後記 今回は、ゼブラの「Z-return制度(ゼブリターン)」の事例を取り上げたわけですが、新しい人事制度を女性社員だけ、しかも人事担当歴がさほど長くない非役職者だけが設計したというのは、かなりレアなケースでしょう。少なくとも私が本誌の取材記者としての20数年間では、数件に過ぎません。本文中にもあるように、ゼブラは、女性労働者の割合は62.5%と高いものの、管理職に占める女性の割合は4%に過ぎないという事情もあって、現在、管理職(課長級以上)に占める女性の割合を10%以上にすることを目標に女性活躍を推進しているところです。その象徴的な取り組みだと思いました。ところで、ゼブラといえば、私個人としては「シャーボ」のイメージが強烈にあります。1977年に画期的な高機能ペンとして発売された商品ですが、あの「シャーボ」という独特のCMの声は、今でも耳に残っていますし、学生時代にちょっと無理をして購入した「シャーボ うるしゴールド」は、まだ大切に使っています。 もうひとこと:2018年1月号「Brand-New人事System」取材後記 今回のTMJの取材では、対応いただいた岸川人材本部本部長の経歴を伺って少なからず驚きました。本文にも書きましたが、岸川氏はTMJで週3日のアルバイトをしながらプロのバンドマンを目指していたとのこと。30歳を機に音楽の道を諦めてフルタイムの正社員となり、現在の役職に至っているわけです。この間、地域のマネージャーも経験し、現場の状況を熟知しているからこそ、今回の正社員化を軸とした新人事制度の導入を強く押してきたことが頷けました。新しい人事制度が現場から浮いてしまうことは珍しくありませんが、人事パーソンが現場を知っておくことの重要性を改めて痛感しました。 もうひとこと:2017年11月号「Brand-New人事System」取材後記 今回も「働き改革」に取り組む企業を取り上げました。今年だけで3件目の事例になると思います。ただ、これまでIT系、外資系の企業ばかりだったのに対し、カケハシスカイソリューションズは人材採用、社員研修等の人材サービス企業であるところに特徴があります。「働き改革」の導入サポート事業もサービスとして提供されており、私としてはこうした啓蒙・啓発からさらに踏み込んだ動きに大いに期待しているところです。今年3月、政府の働き方改革実現会議では、「働き改革実行計画」を発表しました。5番目の「柔軟な働き方がしやすい環境整備」では、テレワークについてガイドライン刷新と導入支援が挙げられています。具体的には、在宅勤務形態だけでなく、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務を追加することとしていますが、実際にはどのように行われるのでしょうか。予算も含めて実効性のある施策を期待しています。 もうひとこと:2017年9月号「Brand-New人事System」取材後記 今回、太陽生命保険を取材して思ったのは、同社がまさに「従業員ファースト」の企業であるということです。「お客様第一」を掲げる企業が多いなか、「従業員」を「お客様」「社会」よりも最先順位に位置づける「太陽の元気プロジェクト」は、なんと大胆なのでしょうか。しかし、従業員のモチベーションが下がっている状態では、お客様に質の高い商品やサービスを提供することができないことは自明の理です。従業員を大切にしないブラック企業がその典型例だと思います。人事部の高梨部長の言葉にもありましたが、「太陽生命保険の従業員って何か元気だよね。太陽生命保険の従業員の皆さんって何か素敵だよね」と顧客が感じることこそ、優れた企業の証しではないでしょうか。コンプライアンスなどと言っているうちは、まだまだなのだと感じました。 もうひとこと:2017年7月号「Brand-New人事System」取材後記 日本の労働生産性について、しばしば議論されることがあります。『平成28年版 2015年の労働経済の分析』(厚生労働省)では、OECD 諸国の中では最も低い水準にあると指摘し、その要因の1つとして、IT投資をはじめとするイノベーションなどのTFPの寄与が不十分であることを挙げています。産業別でみても、アメリカのIT資本投入を1とした場合、日本では水道・ガス・電気、情報通信は0.9を超えるものの、他の大半の産業ではそれを下回っています。まだまだパソコンと無縁の職場も多いわけです。目先の長時間労働の是正ばかりが注目されていますが、TFPについても真剣に考える必要があるのではないでしょうか。3.11以降、時間と場所を選ばない働き方の事例を何度か取材しました。IT系企業以外では、今回のユニリーバ・ジャパンが初めてになります。これまでIT系企業だからできる取り組みだという声もありました。それこそ日本的な発想であり、ユニリーバ・ジャパンのように日本で働き方を変える外資系企業から学ぶことは少なくないはずです。 もうひとこと:2017年5月号「Brand-New人事System」取材後記 IDCフロンティアさんの取材は2回目になります。しかし、今回は、ちょっと驚きました。これほど風通しのよい会社だったのかと。本誌の取材は創刊の年からですので25年以上になります。人事担当者が新しい制度を通すのに苦労したお話は随分、お聞きしてきました。役員に却下されたなどということは珍しくもありませんが、これは課長職以上のお話。役職の肩書きもない若手の女性社員の提案、それも週4日勤務も可能な新しい働き方という大胆な制度の提案では、まず、普通の企業ではあり得ないのではないでしょうか。ここ数年、新しい働き方の取材を何度かしていますが、時代の変化もあるのでしょうね。 もうひとこと:2017年3月号「Brand-New人事System」取材後記 女性労働者の「再雇用特別措置」が、1985年に男女雇用機会均等法が施行された当時に規定されていたことについては、意外と知られていないかもしれません。努力義務とはいうものの、「ブーメラン採用」が盛り込まれ、現在の育児・介護休業法に引き継がれています。その意味で、「ブーメラン採用」の最近の導入事例について、一定の線引きが必要だと考えます。今回、取り上げた富士通の「カムバック社員制度」は、育児・介護はもちろん、配偶者の転勤に加え、転職による退職までも対象としています。特に転職者の再雇用こそが、アメリカ型の「ブーメラン採用」であり、今後、どこまで導入企業が増えるかが注目されるところです。なお、先日、富士通広報IR室の松本さんから、ICTを活用した富士通の「働き方改革」として2017年4月より「テレワーク勤務制度」を正式導入する旨のご案内をいただきました。いずれ、本誌で紹介させていただければと思います。 もうひとこと:2016年12月号「Brand-New人事System」取材後記 大学のキャリア対策講座で長年、宅建士試験の受験指導をしている関係で、不動産業界の実情はある程度知っているつもりです。かつて、私自身も宅建士登録をしていたことがあります。そういえば、シンクタンク研究員のときに不動産業界も担当していたことを今、思い出しました。さて、今回、取り上げた投資用マンション業界ですが、実は昨年、教え子が就職しています。しかし、まさに典型的な利益至上主義の会社でまだ在職しているかどうか。FGHのように「多数標準」という理念の企業であれば、本人の成長にも資するところ大だと思います。業界研究の不勉強さを恥じているところです。 もうひとこと:2016年10月号「Brand-New人事System」取材後記 イオンの取材当日、お話を伺ってから、本社ビル2階の「イオン歴史館」を案内していただきました。入館すると、イオンの年譜が壁面に写真とともに記され、随所に資料が展示してありました。新入社員は必ず、ここを見学するとのこと。岡田屋に始まるイオンのDNAを学ぶわけです。ところで、私の住む市にも店舗面積4万uを超えるイオンモールがあります。最寄駅の1つに直結していることもあって頻繁に利用しています。毎日の晩酌のビール、酎ハイ、日本酒は100%店内での購入です。もちろん、箱買いで一度に数ケースとなりますが、他の買い物と一緒に即日配達してもらって収納ケース1つにつき、わずか100円という安さ。重宝しています。 もうひとこと:2016年7月号「Brand-New人事System」取材後記 本誌で長年書いていますが、考えてみれば、採用ネタは数年ぶりです。ADKの「相棒採用」は、メンター制度の入口という捉え方をすると、人材育成の観点からも大変効果的な仕組みになるように思います。今の若者は、新人類といわれた私の世代より、モチベーションに左右されるところが大きいような気がします。普段、大学で学生たちと接しての実感です。その意味で、入社前から親身になってアドバイスしてくれた先輩社員は、何でも相談できる貴重な存在といえるでしょう。先日、3年前に卒業した大学の教え子にばったり会いました。聞けば、会社を辞めて転職活動をしているとのこと。辞めた理由が、まさに「モチベーションが上がらない」でした。相棒採用のような制度があれば違ったんだろうな、と思うことしきりでした。 もうひとこと:2016年5月号「Brand-New人事System」取材後記 ここ数年、この連載「Brand New 人事 System」では、IT業界を取り上げることが増えています。その背景には、企業のIT投資が盛んになっていることがあります。人事労務の分野にも波及しているといえるでしょう。先日、システムインテグレーター大手のNTTデータが15年度決算の業績が史上最高であったことを発表しました。金融や公共分野を中心にITシステム開発のプロジェクトが激増しているわけです。これに伴い、IT技術者の需要が増えています。ところが、現状では絶対数が不足しているうえ、NTTデータのような大手に人材は集中しています。今回、取材させていただいたIDCフロンティアの「フルチャージ入社制度」(中途採用の社員を対象に入社日から1ヵ月間の特別有給休暇の取得と、試用期間満了後に100万円を支給)は、IT技術者争奪戦の切り札として実施されたものですが、その効果は絶大だったといえます。4月25日、同社は、すべての募集職種へ拡大することを明らかにしました。 もうひとこと:2016年4月号「Brand-New人事System」取材後記 サイボウズは、2度目の取材になります。前回は、2010年10月号「雇用機会の創出と業務効率の向上へ,自社のグループウェア製品を活用した在宅勤務制度を試験導入」で伺いました。早いもので5年以上も前になります。今回の記事にも書きましたが、ちょうど多様な働き方の諸制度の導入が矢継ぎ早に推進され、離職率も大きく改善された時期だったわけです。同制度も当初、月4回という利用上の制約がありましたが、その後、選択型人事制度の導入もあり、今では恒常的に在宅勤務をする従業員も存在しています。「100人いれば、100通りの人事制度」という言葉は当時の取材中では出なかったように思いますが、今回の取材で全体での位置づけがよく分かりました。 もうひとこと:2016年2月号「Brand-New人事System」取材後記 今回の取材のきっかけは、「バリフラットモデル」導入についてのプレスリリースです。当然、このテーマにスポットを当てて取り上げるつもりだったのですが、実際にお話を聞いてみると、そこに至るまでの紆余曲折の経緯が興味深い。まさに山あり谷あり(谷あり谷ありが適切?)の中で生まれてきた大胆な制度だったわけです。おまけに中村社長は出向だというのですから2度驚きました。これまで別の連載も含めて、何人ものベンチャーの創業者にお会いしてきましたが、第一印象はまったくもってそのもの。着任されてからの取り組みもそうです。ISAOは立ち直ったというより、DNAも組み替えられて新生したというのが、私の受けた印象ですね。 もうひとこと:2016年1月号「Brand-New人事System」取材後記 インターネット環境の整備が驚くべきスピードで進んできました。今回、テレワークについて取材したわけですが、20年ほど前に取材した事例を思い出します。外資系企業が在宅勤務を導入したというものでした。ネット環境がない当時、会社との連絡で使われていたツールはファクスだったんですね。比べて今回の日本マイクロソフトは、携帯端末への移行やクラウド化によって状況が変化していることに着目し、自社の開発ツールを活用したテレワークの推進に向けた舵取りをしています。こうした迅速な取り組みが、働き方の変化には不可欠なのだと痛感しました。 もうひとこと:2015年12月号「Brand-New人事System」取材後記 10月22日の朝、テレビ番組をNHKに変えたところ、『「中核社員」の仕事と介護両立のカギは』を放送中で、ちょうど三州製菓の「一人三役制度」が紹介されていました。NHKでは基本的に特定の社名は放送しないのですが、この制度名はオープンにしてたのです。そこでネットで検索すると、同社の制度であることが判明。すぐにホームページから取材の依頼をしました。すると、わずか2時間ほどで直接、斉之平社長から取材に応じていただける旨のメールが! 翌日、春日部の本社にお伺いしたわけですが、女性の活躍について社会を啓蒙していこうという斉之平社長の使命感がひしひし伝わってきました。 もうひとこと:2015年11月号「Brand-New人事System」取材後記 今回取材したリコーリースの「育メン・チャレンジ休暇制度」は実に大胆な取り組みです。何しろ、男性社員に育児のための休暇の取得を義務化し、さらにその時期まで特定しているのですから。おそらく一般的な企業であれば導入はかなり困難でしょう。女性社員の割合が半分を占め、彼女たちの活躍なくしては業務が成り立たないからこその施策です。口で男女共同参画というのは簡単ですが、家庭では育児は女性に押しつけているのが現実のように思います。その大変さを共感することは職場での男性社員の意識も変わるに違いありません。ただ、仕事抜きにしても、育児に関わることで得られることは実に大きいものです。これは育メンだった私自身の実感です。 もうひとこと:2015年10月号「Brand-New人事System」取材後記 今回の伊藤忠テクノソリューションズさんには、一昔前に取材でお伺いしていました。1995年、旧社名「伊藤忠テクノサイエンス」の頃で、媒体は『賃金の新しい決め方』という別冊資料集でした。私は、これまで執筆を担当したものは基本的に概要一覧表でまとめています。それによると、こんなふうに書いていました。「バブル経済崩壊による平成不況初期、日本企業の強みといわれた終身雇用、年功賃金などの日本型雇用慣行が足枷と認識されるようになった。本書では、こうした観点から賃金制度の改定を先取りした50社を大企業から中小企業まで、また業種も幅広く取り上げた。アデランス、伊藤忠テクノサイエンス、カシオ計算機、日本建鉄、京王プラザホテル、沖電気工業、オリンパス光学工業、帝国データバンク、ニコン、ユニバーサルガーメイシステムを担当」。95年というと、20年ほど前になります。時の経つのは早いものです。 もうひとこと:2015年9月号「Brand-New人事System」取材後記 一昔前、中小企業診断士試験の受験対策本として『労務管理』を執筆し、講義も担当したことがあります。そのために結構、勉強もしたわけですが、個人的に「人間関係管理」という分野に興味を持ったものです。20世紀初頭の科学的管理であるテーラーシステム、ホーソン実験、行動科学など、労働者を単なる生産要素の一つとみなして管理するのではなく、社会的感情を持った人間として扱う管理手法が研究されてきました。いかにモチベーションを上げて労働意欲を高めるか、これが課題だったんですね。目標管理制度、提案制度、小集団活動などいずれもその具体的な施策です。ところが、なかなか期待するような成果を出すのは簡単ではありません。今回、取材したディスコの「Will会計」は、見事にモチベーションを高め、成果を出しています。伝統的な手法との大きな違いは、労働者が管理されているのではないことでしょう。皆さん、ゲームにはまるように楽しんでいるのがポイントです。自分が楽しいからやる。その結果が企業としての成果に結実しているわけです。こんな手法があるなんて目からウロコでした。 もうひとこと:2015年8月号「Brand-New人事System」取材後記 東京商工会議所が、 『中小企業の人材確保・育成10カ条〜企業成長の源泉は人材にあり』 という40ページほどの小冊子をまとめています。中小企業を取り巻く現状を分析したうえで、人材の確保・育成に積極的に取り組んでいる中小企業へのアンケート、ヒアリング調査を実施し、具体的な事例を紹介したものです。これを見ても、今回取り上げたジーアンドエフの「ITインフラ技術者育成プロジェクト」が採用の段階からして、かなりユニークなことが分かります。まずは、人材マーケットには、大手企業からこぼれ落ちた優秀な人材が存在しているという発想です。ぜひ、参考にしていただきたいと思います。 もうひとこと:2015年7月号「Brand-New人事System」取材後記 ヴィアホールディングスのキャリア等級制度は、職能資格制度をベースにしています。職能資格制度は、日経連が昭和40年代に考案し、多くの大企業で導入されてきました。しかし、バブル後、企業の業績悪化とともに年功的な側面が批判にさらされたことは周知の通りです。実は、私の大学院時代の修士論文は「職能資格制度の再評価―日本型雇用において果たした役割」(2002年)と題するものでした。運用面での問題点を指摘しつつも、制度の経済的合理性を評価しています。今回、お話を伺った執行役員の奈良岡さんは、私が制度の研究をしていたほぼ同時期、すかいらーくの人事責任者で、職能資格制度を牽引してきた楠田先生のセミナーを受講されていたとのこと。奇遇なことに驚きました。 もうひとこと:2015年3月号「Brand-New人事System」取材後記 私の趣味の一つに料理があります。当然、食材の買い出しもしますので、仕事帰りにスーパーに寄ることは日常的です。最寄駅が3ヵ所あるため、私が常連になっているのは中堅大手の3店舗。それぞれ地域特性からカラーがあります。以前から気になっていたのが、その店舗の店長さんの写真が張り出されていて、大抵、どこのスーパーでも、2〜3年で変わること。すると、お店の雰囲気、何と言うか、店員さんたちの立ち振る舞い、買い物の動線、商品の位置など、微妙な変化が見受けられることがあります。よい意味での変化よりも、気づくことが多いのは悪い意味での変化が多いように思います。今回、取材をして、スーパーが「地域社会とともに発展できる企業」だということがよく理解できました。店長さんはじめ、社員の方々によるところが大きいわけです。顧客の1人としては、地域に馴染んだよい雰囲気は変わってほしくはないですね。 もうひとこと:2014年12月号「Brand-New人事System」取材後記 私は、本誌の創刊の頃から取材をしていますが、今回、伺った知財コーポレーションのように女性管理職が多い企業は初めてです。ふと、思い出したことがあります。92年ですからふた昔の話になります。当時、コース別雇用管理制度として「総合職」に次ぐ「準総合職」を新設する企業が相次ぎ、複数の企業を取材しました。同制度は、女性従業員の有効活用を目指したものだったわけですが、現実には横並び意識で導入され、うまく機能していませんでした。理由は、対象となる女性従業員の数が極めて少ないこと、担当業務が十分に考慮されていなかったことなどが挙げられます。結局、一般職の女性従業員と同じを業務をすることになり、男性従業員(全員が総合職です)のみならず、女性同士との関係にも溝ができ、退職してしまうケースが少なからずありました。知財コーポレーションが成功している理由を考えたとき、こうした点をクリアーしていることが大きな要因になっているように思います。そもそも、男女関係なく本人と仕事がマッチしていることが大前提です。これをどう実現していくのか、女性割合の数値目標よりも先に考えていく必要があるのではないでしょうか。 もうひとこと:2014年10月号「Brand-New人事System」取材後記 今回、取材に応じていただいた来栖寿江さんは、今年4月1日付で人材開発センター長に就任されたばかりですが、日本バルカー工業初の女性CEOでもあります。特筆すべきは、瀧沢利一社長の就任時から17年間にわたって秘書として支えてきた方だということ。「トップの考えていることは大筋わかります。確認しなければならないことと、勝手に進めていいことが大体わかるんですね。つまらないことでも確認したほうがいいこともあります」こう話されていたのが印象的でした。同社の「社長塾」は、瀧沢社長の思いが強いだけに、事務方の責任者としては、まさに「余人をもって代え難し」ということでしょう。 もうひとこと:2014年8月号「Brand-New人事System」取材後記 先進諸国に比べて、日本人は労働生産性が低いと言われことがあります。異論もあるようですが、代替性のある裁量型の業務では当てはまるケースもあるように思います。とりわけ、残業時間に入ると、その傾向が強くなるのではないでしょうか。ダラダラと時間を浪費したり、気晴らしタイムを入れたり、私も大いに心当たりがあります。リコーの新フレックスタイム制度は、この点の改善に主眼を置いて、従業員の意識改革にまで踏み込んだものです。トップの判断で一旦、休止になったフレックスタイム制度を新しい形で再開させるには、かなりエネルギーを要したと察します。入社以来、人事畑一筋の中村部長の力量によるところなんでしょうね。 もうひとこと:2014年7月号「Brand-New人事System」取材後記 当日の取材には、広報の河本澄子さん、人事部長の土泉智一さんにも同席していただきました。こうした場合、通常、担当部長さんが中心になってお話されることが多いのですが、今回は人事部マネージャーの久佐野悠さんが全般にわたってお話くださいました。私の数多い取材経験でも異例です。さすが、化粧品のクチコミサイトの企画・運営で業績を伸ばしてきた企業だというのが、私の印象です。やはり、こうでなければいけないと思います。女性に権限が与えられ活き活き働くことで、顧客である女性の心に訴えるサービスが提供できるのでしょうから。 もうひとこと:2014年4月号「Brand-New人事System」取材後記 先日、『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHP)を改めて読みました。「あと10年で、会社はなくなる」など、かなり衝撃的な内容が書かれている本です。2年前にベストセラーになっているのでお読みになった方は多いと思います。今回、エンファクトリーの「専業禁止」を取材して、この本のことを思い出しました。著者は、近い将来、日本の大転換が訪れると言います。生きる力は戦後のシステムの延長では得られない、とも。「専業禁止」は、ビジネスパーソンが自ら生きる力を身につけるシステムなのではないでしょうか。 もうひとこと:2014年2月号「Brand-New人事System」取材後記 大和ハウス工業の今回の制度改定は、トップダウンで行われています。当面、100社を数えるグループ企業のうち16社の一元化を図ったわけですが、グループとはいえ、規模、業種など多様なため、同じシステムのパッケージが業務に馴染まないケースがあることは想像できます。社の大号令だけでは、現場が納得してくれない一面もあるでしょう。人事担当者共通の悩みかもしれません。 もうひとこと:2013年12月号「Brand-New人事System」取材後記 アイ・ティ・フロンティアにおいてBOYDの導入が成功した要因は、IT企業として意識が高かったことが挙げられます。スマートフォンの普及率の高さ、セキュリティ問題の解決などはその一例です。しかし、それ以上に、導入担当者の皆さんの熱意とアイデアが大きな要因になったことは間違いないと思います。まず役員を説得するために、スマートフォンのよさを実感してもらう。とても素晴らしいアイデアではないでしょうか。手取り足取りのフォローは大変だったようですが。社員に対するアンケートについては、1回で済むように質問事項の作成に1ヵ月かかったと言います。現在、BOYDの導入を考えている企業の担当者は、是非とも参考にしてください。 もうひとこと:2013年11月号「Brand-New人事System」取材後記 今年3月、政府の規制改革会議が雇用分野の重点項目をまとめましたが、その中に「非正規労働者を正社員に転換する仕組みづくり」がありました。島屋の「セールスキャスト」は契約社員であり、正社員に優先採用する同社の制度は、まさに先取りした取り組みだといえるでしょう。販売に特化したセールスキャスト導入に際しては、「同一労働同一賃金」が課題とされていました。欧米の人事制度では当たり前のことですが、日本ではあまり意識されていないようです。この点についても「いつも、人から。」という同社の経営理念を感じます。今回、改めて島屋の歴史を振り返ってみて、日本初、業界初の取り組みが多いことに驚きました。 もうひとこと:2013年8月号「Brand-New人事System」取材後記 社内コミュニケーションとしては、東証一部上場企業でも、ほとんどの企業がまだPCメールを利用しており、社内SNSの普及率はわずか1割程度に過ぎません(「ビジネス・コミュニケーション調査」)。これは、社内SNS導入の難しさが広く知られているからではないでしょうか。ネクシィーズの場合、失敗するケースとして挙げられる「全員に一斉展開」にあえて踏み切りました。にもかかわらず成功している要因は、カリスマ社長のもとで「オールネクシィーズ」という企業文化を培っていたことが大きいといえます。こうした背景を持たない企業が全社員に一斉に使わせようとしても、失敗することは目に見えています。まして、トップや管理職が社内SNS導入に積極的でない場合は何をかいわんやですね。 もうひとこと:2013年3月号「この業界の人事に学ぶ」取材後記 ビギナーがダンスをする場合、慣れるまでは時間がかかるものですが、アルゼンチンタンゴでは、男性のほうが女性の10倍も大変だそうです。その理由は、リードするのはすべて男性だから。男性は音楽を聴き、女性をリードしながら、他の組にぶつからないように周囲に配慮しつつ、方向を変え、ステップを選びながら踊るのです。女性は一歩たりとも先読みして踊ってはなりません。リードできない男性と組んだ女性は悲劇となります。男性の責任は非常に重大なわけですが、その分、自由に自分の感性を表現をできる特権があります。協会会長の江口さんは、次に生まれ変わってタンゴを踊るなら、絶対に男性がいいと思っていたとか。 もうひとこと:2013年1月号「この業界の人事に学ぶ」取材後記 取材にはご主人の敏一さんにも立ち会っていただきました。千鶴さんの思いは半端ではないようで、飼い主の犬に対する扱いのひどさについて語る場面では、ご主人が冷静になるようにストップをかけることもありました。仕事として割り切ることも必要だ、と舵取りをすることも敏一さんの重要な役目になっています。ご夫婦での役割分担がとてもうまくいっている印象をうけました。犬濯屋川村でトリミングをしてもらった犬は、ますます飼い主に大切にされて幸せだと思います。 もうひとこと:2012年11月号「この業界の人事に学ぶ」取材後記 まったくの独学から第一人者となるのは、常人では真似できない努力が必要です。試行錯誤の繰り返しが不可欠だからです。宇田さんは、まさにこうしたご苦労を経験されて今に至っています。私は、どの分野であれ、持って生まれたセンスだけでなく、作家のものづくりの経験が作風に影響を与えるものだと考えます。宇田さんの作品も、ただ精緻であるだけでなく訴えてくるものがあります。お弟子さんが独立することがいかに大変か、ふと考えてしまいました。 もうひとこと:2012年9月号「この業界の人事に学ぶ」取材後記 「急がば回れ」。小石さんに革財布職人の要件を伺って、頭に浮かんだ言葉です。確かに器用な人間は得てして、基本をないがしろにして事を急ぐ傾向があります。その時は結果が早く出て評価されるのですが、結局は大成しないということです。ビジネスの世界でも同じことが言えますね。 もうひとこと:2012年7月号「この業界の人事に学ぶ」取材後記 長尾さんご兄弟は、工房では、互いに向かい合って仕事をされています。現在は昔のように全体をコーディネートする版元が存在するわけではありません。ですから、細かなところで確かめたいことがあれば、彫師と摺師が直接やり取りする必要があります。この点長尾版画匠は理想的なわけです。おまけに気心も知れています。ご両人とも大変寡黙な方ですが、そこはあうんの呼吸なんだろうと感じました。 もうひとこと:2012年6月号「この業界の人事に学ぶ」取材後記 ブライダル司会者の仕事に定年はありません。神子さんによると、「引退を考えなければならなくなるのは、立つのが辛くなったり、言葉が出なくなったりしたときです」だそうです。常に向上心を持って臨まれていることは書いた通りですが、ラジオも重要な存在になっており、情報番組での司会者とタレントと掛け合いから、ご自身が司会をする際のヒントが拾えると言います。「見て盗む、聴いて盗む。そこから自分流を創ることを心がけています」(神子さん)。本当に頭が下がります。 もうひとこと:2012年4月号「この業界の人事に学ぶ」取材後記 楽器の音色にはその演奏者の人柄が顕れるということを聞いたことがあります。今回、「この業界」でインタビューした箏演奏家の阿佐美穂芽さんは、凛としていながら、おっとりとした穏やかな印象を受けました。これまで多くの女性のフリーランスの方にお会いしてきましたが、ほとんど例外なく、強い上昇志向の持ち主でした。楽器にもよるのでしょうが、箏演奏家には当てはまらないように思いました。箏の音色にギラギラした響きは馴染みません。 もうひとこと:2012年2月号「Brand-New人事System」取材後記 「20大雇用」とは、また、なんと大胆な取り組みを宣言する企業なのでしょうか。障がい者雇用については、記事にも書いた通り、渡邉社長は待遇改善に向けて明確かつ具体的なビジョンをお持ちです。それもビジネスとして収益を上げながらです。取材後、非常勤講師をしている介護福祉士養成の専門学校でこの話をしました。学生たちは、障がい者の給与が現状でいくらかなのかはよく知っています。みんな驚きのあまり、目が点になっていました。これまで多くの経営者の方にお会いしていますが、今回はかなり衝撃を受けました。 もうひとこと:2011年10月号「Brand-New人事System」取材後記 テレマーケティングジャパンは、ベネッセコーポレーションと同様に女性従業員の割合が高い企業です。20年ほど前、女性の総合職、準総合職について複数の企業を取材したことがあります。うまく機能していたのは、女性従業員の比率の高いところだったことを覚えています。今回、人事総務部部長の山根さんのお話を伺っていて、ふと、そんなことを思い出しました。 もうひとこと:2011年8月号「Brand-New人事System」取材後記 真剣に在宅勤務に取り組む企業が増え始めました。15年前にドイツに本社を置チェーンソー販売会社日本支社の事例を取り上げたことがあります。社員とのやりとりはファクスで行われていたものですが、時代は大きく変わりました。パソコン、インターネット、そしてネットワンシステムズのような仮想デスクトップ環境の整備とシンクライアント端末の活用。運用やセキュリティ面においては、もはや在宅勤務制度導入において十分な環境が整いつつあります。しかし、変わっていないのは日本の宮仕えの文化。在宅勤務の日は近所の奥様方の目が気になるとおっしゃっていた下田氏の言葉は、多くのサラリーマンに共通の思いではないでしょうか。 もうひとこと:2011年5月号「Brand-New人事System」取材後記 ワークスアプリケーションズは、日経ビジネスの2010年版「働きがいのある会社」で1位に輝きましたが、従業員が、そう感じているその秘密のひとつが「アドミンスタッフ」であることは間違いないでしょう。何しろ、その職務が「社内コミュニケーションの活性化と文化の浸透」なのですから。まさに日々、「働きがいのある会社」にするためにアンテナを張って、具体的なタスクを実現しているのです。労務管理の教科書では、従業員のモラールアップのための人間関係論に基づく諸制度が紹介されていますが、職務そのものがその役割を担っている「アドミンスタッフ」は実にユニークだと思いました。 もうひとこと:2011年3月号「Brand-New人事System」取材後記 富士電機ホールディングスは、日本経済新聞社の「働きやすい会社」調査のランキング常連組です。女性活躍推進など、ダイバーシティーの取り組みが高い評価を得ているのでしょう。その成果は、達成数値だけでなく、ご担当の市田さんがいきいきと語られている姿からも伺えました。人事勤労部部長の矢座さんには、休暇明け早々のご対応ありがとうございました。それにしても市田さんはガラパゴス諸島で休暇をとられたとのこと。さすがです。 もうひとこと:2011年1月号「Brand-New人事System」取材後記 「企業は人なり」を標榜する企業だけあって、人材育成について至れり尽くせり、という印象を受けました。キャリアプランを意識した人材開発メニューが実に豊富で、日本経済新聞の「働きやすい会社」調査において、常に「人材育成と評価」の部の上位に位置づけられるのもうなずけます。人事部長兼人財開発部長の坂田さんには、十分な資料を前によどみなくご説明いただき、これほど楽な取材もないくらいでした。プレゼンの名手に違いないと拝察しました。 もうひとこと:2010年5月号「人にキャリアあり」取材後記 番匠さんには、4年前、キフリを立ち上げられて間もない頃にお会いしています。相変わらず、笑顔が絶えない快活なキャリアウーマンでした。今回は、私生活に触れる部分まで包み隠さずお話しいただいています。原稿にするにあたり、ちょっと迷いはありましたが、「どん底もあったから今のような考えができる」という番匠さんの言葉を思い出し、自主規制を解除しました。DIY。私も久しぶりにやってみたくなりました。 もうひとこと:2010年3月号「人にキャリアあり」取材後記 牟田社長のキャリアは存じ上げてたので、お父上がガテン系の職人さん(大工)だと聞いた時はちょっと驚きました。学究肌の静かで温厚なイメージと結びつかなかったんですね。しかし、次の言葉を聞いてギャップはなくなりました。「私の田舎では、大工の世界に契約書がありませんでした。一戸建ての家を建てる場合も、『俺に任せておけ!』と胸をたたいて仕事を引き受けます。そして、絶対にウソやごまかしがない。見えないところにもこだわる。そこに美徳があるんです」。自分が知らないものはやらない、受講生の数は顔が見える程度にとどめたい、など、経営のコンセプトを見ても、職人気質は確実に受け継がれているようです。 もうひとこと:2010年1月号「人にキャリアあり」取材後記 一般的に創業者は、個性的な人が多いように思います。というより、他人と同じではない自分固有の能力と可能性を求めるからこそ、起業の道を選択するのでしょう。マズローの欲求5段階説でいうなら、創業者は最高次の欲求「自己実現欲求」が旺盛なのだと説明することができます。今回、インタビューに応じてくださったアニコム損害保険の小森社長も例外ではありません。特に、ペット保険に人間の健康保険のシステムを導入するという、新しいビジネスモデルを構築して実現されたことを考えれば、一層、その感があります。その一方で、「根はビビリンチョなんです。ずっと探求して分析し続けないと、脳みそが止まって死ぬんじゃないかという脅迫感があるんですよ。だからサメみたいに回遊しています」とおっしゃっていました。子供時代から、成功体験をそのまま受け入れず、常に自省してこられたところがとても印象に残りました。 もうひとこと:2009年11月号「人にキャリアあり」取材後記 シリーズでは、これまでも20代の若い経営者にインタビューしてきました。今回の株式会社ウィングルの長谷川社長は昨年、大学を卒業したばかりの最年少です。一般の企業ではまだまだ、一人前に扱ってもらえない年齢だと思います。採用・研修ご担当の皆さんはどのような感想をもたれたでしょうか。大学では、今、教育改革が議論されています。大学で学生たちに何を学ばせるのか。サークルやアルバイトでは身につかないことがある、というんですね。しかし、インタビューを終えて考えさせられたのは、「学ばせる」ではなく、学生たちが自ら学ぼうとする気持ち、つまり「自習自得」の精神を持つことができれば、どのような場所であっても成長していくのではないか、とうことです。今の大学教育に欠けているのはこうした視点ではないかと。ほめることも大切なんですね。私も学生たちに向き合う際のヒントになりました。 |