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muji . 2009.03 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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08年の暮れから09年1月20日の東京オペラシティ新春コンサートまで、何をしたかよく覚えていないほどの怒濤の日々だった。



12月28日 九州鹿児島の霧島みやまコンセールで松原勝也(vn)ストリング・クァルテット(鈴木理恵子vn、市坪俊彦va、山本祐ノ介vc)と共演。第一部で、松原氏とヴァイオリンソナタ「Chasin' the Phase」他ジャズ曲3曲。第二部で「Sudden Fiction」のオリジナルピアノ五重奏曲版をやる。途中のトークでは皆軽妙な語りを披露してくれた。祐ノ介さんは薩摩川内の有島家の子孫であることを話した。同じ平佐地区におれの祖母方の曽祖父末弘直方の墓がある。江戸から明治時代に両家は知り合いだったにちがいない。そして母方の親戚の娘でピアニストの小山京子が祐ノ介さんのお嫁さんになるという出来事が起きた。平佐の親戚の柏田耕治さんなどは、有島と末弘が時を経てまた繋がったと言って喜んでいる。また市坪さんもご先祖の地が枕崎で、一度お父上と里帰りをした時に、熊本を過ぎた辺りから、お父上の言葉が完全に変わってしまい、一言も理解できずショックだった、全く外国に来たのと同じだった、という話を披露して大受けだった。

翌29日には 種子島でコンサート。スペシャルユニットで、坂口英明(b)、森田孝一郎(ds)、尾崎佳奈子(as, cl)。坂口、森田両氏は1986年(!)の「ドバラダ門騒動」の時の鹿児島大のジャズ研のバンマスとメンバー。鹿児島に来るたびにセッションしている。尾崎さんは最近のセッション仲間だ。坂口氏が種子島で動物病院をやっていて市の方々とも話が出来るので、そっちでコンサートができれば嬉しいということで実現した。地方在住ミュージシャンと正式にやるというのは今まで無かったのだが、やはり鹿児島のドバラダつながりは特別だ。「枯葉」、「クルディッシュ・ダンス」、「トリプル・キャッツ」、「スパイダー」、「メモリー・イズ・ア・ファニー・シング」、「フォー・デヴィッズ・セイク」、「ボレロ」、アンコールに「ドラムブギ」という、ジャムセッションではないヤマシタ・プログラムを完遂した。打ち上げは坂口動物病院のピアノつき大広間で主催者の方々と和やかに挙行。夜なので動物さん達には会えなかったが、動物話で盛り上がった。いい気持ちになって、自分からピアノに座って弾き始めるという焼酎現象だ。すると何とこの家の大猫がピアノの椅子に飛び乗って隣に座った。初めてのことだそうで猫好きのおれは大喜び。これも鉄砲伝来とジャズ伝来が呼応した歴史的猫現象にちがいない(何のこっちゃ)。クラリネット・カルテットでグッドマンのレパートリーなどやる。桜島出身の役者の上山克彦さんも参加していてすっかり馴染んでいた。上山さんはネットの筒井康隆ファン倶楽部の生え抜きメンバーで近々ニューヨークで筒井さん原作の「陰嚢録」の一人芝居をするという。追っかけたいくらいだ。そういえば昨日の霧島にはやはり生え抜きメンバーのMINさんがご家族と来てくれていて歓談した。鹿児島はますます特別な場所になっていく。



翌30日東北のセンダイへ。 「ジャーマネG君の出身校東北大学の川内講堂が新装改築されて市民と共同で使用していく方針らしいがそのこけら落としの年越しジルベスターコンサートが明日ある。仙台フィルで指揮は山下一史さん。10月の「せんくら」で自作協奏曲第三番「Explorer」をやった時と同じだが今度は「ラプソディ・イン・ブルー」を弾く。大晦日、午前中にまずお蕎麦屋さん「清水屋本店」に行く。醤油会社勤務だった兄が先代の時から親しくしているお店で、必ず寄れとのお達しだった。若旦那にご挨拶して鴨せいろを美味しくいただく。この頃までに実は兄と雑誌「ミセス」で蕎麦ウンチクの対談をしていて、せいろの上に残った蕎麦は一本残らず破片も全部食べること、箸でとりにくい時には垂直に立てるととれる、などのほか、鴨せいろは汁をたっぷりつけてよいなど聞いていたので、その通りにする。

 本番の演奏は時間制限ありで、曲が始まって17分でその時やっているアドリブを終えなければならない。時計を見ながらなんとかやって、最後は歌手の田村麻子さん、中鉢聡さんと共にカウントダウンに参加。ミラーボールの光が新築の川内講堂に舞い踊って、無事に2009年になった。
 翌日、仙台駅での時間待ちで新幹線改札口の隣りのお蕎麦屋さんに入ると、ご店主から声をかけられる。昨晩聴いてくれていたのかと思ったらそうではなくNHKテレビの「食彩浪漫」を見たとのこと。「あさばさん江」とサインをする。結局、そこに座って名物おつまみと美味しい朝酒をいただいてしまった。今日は兄の家で新年会もあるし、ま、いいか。ということで今年の第一日目が始まった。怒濤の日々、よく覚えていないと言いながら、あっというまに字数が尽きた。この項次号に続くというやつで今回はご勘弁を。



「CDジャーナル」2009年3月号掲載
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