7月号イラスト
イラストレーション:火取ユーゴ

山下洋輔の文字化け日記

第101回 2010.7月

100月回日。あっと気がつけば、この文字化け日記、前回で100回になっていたのですね。イラストの火取ユーゴさん、代々の編集者の方々にお礼申し上げます。おかげさまでほとんどの項目が文庫本(小学館)に収録されました。また次の100回を目指しますので、皆さま、どうかお見捨てなく!

黄金月週間日。ピットン恒例のゴールデンウィーク3デイズ。一日目は、寺久保エレナ(as)初リーダーアルバムNYレコーディング記念ライブだ。ファースト・セットは若井優也(p)、楠井五月(b)、長谷川学(ds)のリズムセクションで収録曲をご披露した。すごく上手いリズムセクションに驚愕したが、それを仕切ってバリバリと吹きまくるエレナ少女の姿に感服。もっともNYではケニー・バロン(p)、クリスチャン・マクブライド(b)、リー・ピアソン(ds)を仕切っちゃったんだから、恐いものなしだよね。セカンド・セットには山下も参加してレコーディング用にエレナにプレゼントした曲「North Bird」を演奏。若井君にキーボードで参加してもらって全員ヤマシタ曲でアバレるという有難い時間も出現した。

二日目は最近始めた「Solo & More」ユニット、米田裕也(as)、熊本比呂志(perc)で、一曲目はピアノソロでオープニングする。このところソロピアノ・コンサートでも「I'll Remember April」から弾き出すのが体質になっている。別に四月でなければやれない曲ではない、四月を思い出しているのだから、いつやろうと構わないではないか、そうだろ、おい、文句あっか。とまあそんなに興奮することはないが。沖縄ーインド・イディオムの「パイカジ」を久しぶりにやり他のヤマシタ曲に加えて米田フィーチャー・スタンダード・バラードなどもあって、アンコールは「テキーラ」。熊本君大活躍。最近インド詣でをして、挨拶も「ナマステー」などと手を合わせている。

三日目はMiya(fl)の登場。斉藤草平(b)、堀越彰(ds)とのコンビは以前「お茶の水NARU」でやって後味がよくそのままピットインに来襲した。ファースト・セットはヤマシタ曲が主で、草平君初々しく炸裂、堀越彰は最近ザ・ウィルというグループのプロジェクトをやっている背景を持っての貫録の演奏を披露した。セカンド・セットの冒頭からMiyaコーナー。Miyaオリジナル連続で素晴らしいMiya世界が展開した。最近Miyaは相倉久人さんのジャズの歴史観に感銘を受け、それをヒントにして次のアルバムの構想を練っているという。いや面白そう。楽しみに待っています。

青月森日。八戸の南郷ジャズフェスの宣伝記者会見に出席。文字化け本にも出てくる旧友の船橋玲さんの肝入りだ、会場の「ジャズの館」には地元の中沢中学校のジャズバンドがいて盛り上げる。「How High The Moon」に参加して弾く。飛山先生の指導が行き届いていて大変気持ちのいい演奏ができた。ラジオ、テレビの取材も受けそのまま青森へ。途中、浅虫駅前のレストランで船橋ご一家と夕食。このイタリアン・レストラン「シャルム」は出るものがどれも異常に美味しくて驚愕。必ずリピートしたいリストを頭脳iPadに登録した。

青森月ソロ日。ギャラリーNOVITAでソロ。満員のお客さんの前でとても気持ちよくやることができた。打ち上げはスペイン人マダムのいる「グラナダ」。外壁に福田繁雄のデザインが施してあるアート館だ。そのマダムが旧友の藤医師ご夫妻と知りあいであることが分かった。哲子夫人にスペイン語を教えていたとのこと。この哲子さんとの初対面が四十年程前で、会うなり筒井康隆作品の話で盛り上がり知識比べをやって負けた。やがて結婚して生まれた娘に七瀬と名づけたのだから多分史上初の最強ツツイストだろう。その七瀬ちゃんは音楽家になってスタインウエイのグランドを持っていたが、フランスに行く時におれに預けていった。帰国した後もまだそのままなので、依然としておれの家にはS型が同居している。その哲子さんご夫妻が客席に見えていたのだが、弘前に帰る電車の都合で去られていた。そういえば、本番中にブーニンの話などした時に異様な受け方の反応があったが、あれ、哲子さんにちがいないと、今、納得する。

記者月会見日。国立音楽大学に2011年度からジャズ科が発足する。ホテルの記者会見場の壇上に居並んだのは、教授小曽根真(p)、招聘教授渡辺貞夫(as)、招聘教授山下洋輔(p)、准教授池田篤(as)、講師中川英二郎(tb)、客員教授神保彰(ds)、准教授栗山和樹(comp, therory)という面々。後日とても大きく報じられるという成果だった。ジャズに興味を持つ面白いドモコ、じゃなかったお子様をご存知の方は、どうかご紹介ください。

一月柳日。とうとうやってきた一柳慧作曲「ピアノ協奏曲第4番<Jazz>」の再演日。しかし、今回字数が尽きた。この項、次回に続くとさせていただきます。