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橋本行政書士事務所(交通事故サポートセンター)
交通事故の被害者が、事故による怪我で後遺症を残した場合、被害者は「後遺症慰謝料」と「逸失利益」を加害者に請求できます。
逸失利益は、将来の労働能力(=収入)喪失分で、将来の何年か分(主に67歳まで)を今まとめて払ってもらうものです。
ですから被害者が今後何年働けるか、ということが重要になってきます。
では交通事故で後遺障害を残して、事故とは全く無関係の理由で被害者が死亡した場合、逸失利益はどう考えるのでしょうか。
死亡した時期に分けて考えてみます。
67歳までの逸失利益を既に払っている状態で、その後例えば60歳の時点で事故と無関係の原因で死亡した場合、「7年分を返せ」などということはありません。そのまま金額は変わることはなく、お金のやり取りなどはします。
つまり60歳での死亡と交通事故の損害賠償とは無関係と考えます。
後遺障害等級が決まると労働能力喪失率が決まり、慣例から対象期間(例えば10年)なども決まってきます。
等級が決まって逸失利益67歳まで10年分を請求しようとしていた矢先に、事故と無関係の原因で死亡した場合、「今後10年働けるとみなして逸失利益10年分」を請求できる(正確には請求して払ってもらえる)のか、既に死亡したのだから請求はできないのでしょうか。
これについて最高裁は、平成8年4月25日の判決で、「逸失利益は死亡時までの分に限らない」つまり通常通り生存していたはずだと考えて67歳までの分を払うべきだ、という判断をしています。
この判例では「事故後、事故と無関係の原因で死亡した場合は、事故の時点で、死亡の原因となる具体的な事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情が無い限り、死亡の事実は考慮せずに、事故後生存している場合と同様に就労可能期間を認定する」ということです。
ただ、死亡したことで本来必要であった「将来の生活費」や「将来の介護費」については判断が違っていて、「将来の生活費」は賠償額から控除しないが、「将来の介護費」はその必要性が無くなるので控除する(損害賠償を請求できない)とされています。
また、事故に遭う前の時点で既に癌などで「余命2年」などと宣告されており、その方が事故に遭って後遺障害を残し、その後、癌など事故以外の理由で死亡した、というような特殊な場合は、後遺障害の逸失利益は67歳(または平均余命の半分)までではなく、余命宣告を受けたこと(2年など)が参考にされるようです。
治療中に事故と無関係の原因で死亡した場合も、後遺障害が残ることが確認できれば逸失利益は通常どおり支払われます。
ただ、証明は難しい場合も多いです。
例えば、「上肢の切断」などはこれ以上回復しないのでもう後遺障害だと分かりますが、高次脳機能障害や神経症状などは、症状固定の時点で症状がどの程度残っているのかを確認することは困難です。
その様な場合は、本人の状態や過去の事例などを参考にしながら、丁寧に説明や証明をしていく必要があるかと思います。
将来介護費用としてかかるはずだった分、については、最高裁は平成11年12月20日の判決で、「介護費用は死亡時までの分に限られる」として、逸失利益とは違う扱いになるという判断をしています。
最高裁はその理由として、「介護費用の賠償は、被害者において現実に支出すべき費用を補填するものであり、判決において将来の介護費用の支払を命ずるのは、引き続き被害者の介護を必要とする蓋然性が認められるからにほかならない。 ところが、被害者が死亡すれば、それ以降の介護は不要となるのであるから、もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく、その費用をなお加害者に負担させることは、被害者ないし、その遺族に根拠のない利得を与える結果となり、かえって衡平の理念に反することになる。」と述べています。
逸失利益も将来の介護費も同じ「将来の事」ですが、損害の項目で考えれば逸失利益は「消極損害(事故が無ければ得られたはずの損害)」であるのに対して、介護費は「積極損害(事故のせいで余計に支出する費用)」であることから、このように判断が分かれたと思われます。