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死亡事故(交通死亡事故)は誰が損害賠償請求できる?

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橋本行政書士事務所

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死亡事故の損害賠償

こちらでは死亡事故の被害者(家族)の損害について説明しています。

1.死亡事故での財産的損害と精神的損害

死亡事故が起きた場合、被害者の損害は
財産的損害 と
精神損害
が賠償請求の対象となります。

財産的損害としては「治療費」「葬儀費用」などの積極損害と、「逸失利益」などの消極損害があります。

精神的損害には、
死亡慰謝料があります。



2.死亡事故で損害賠償請求できる人(請求権者

死亡事故損害賠償請求は被害者本人が加害者にするものですが、死亡事故の場合は被害者本人は死亡しておりますので、「被害者本人の損害」を請求できるのは誰でしょうか。

葬儀費用や病院の治療費などの実費は迷うことはありません。
迷うのは「精神的損害」や「逸失利益」です。

その精神的損害や逸失利益は、別の観点から分類すると、
@「死亡した被害者本人の損害」
A「近親者固有の損害」
に分けられます。

@「死亡した被害者本人の損害」は死亡慰謝料や逸失利益で、これは被害者に代わって
相続人が請求し、受け取ることになります。

相続人とは、
「配偶者」と「子」です。
子がいない場合は「配偶者」と「親(直系尊属)」となります。
子も親も(祖父祖母も)いない場合は「配偶者」と「死亡した方のきょうだい」が相続人となります。

この相続人が、本人に代わって損害賠償請求をして、賠償金を受け取るということです。

Aそしてその他に「近親者固有の損害」があります。これは民法711条に基づいた「近親者の損害」となっており、被害者本人の損害とは別に加害者が賠償しなければならないことになっています。

この近親者とはだれかというと、民法711条で
「父母、配偶者および子」とされております。
また、内縁の妻は正式な婚姻関係がないので相続人ではありませんが、判例でこの民法711条を類推適用して、慰謝料請求権を認めています。

被害者(死亡した方)に子がいる場合、被害者の父母は相続人とはなりません。ですが相続人ではないけれども、民法711条により「近親者としての固有の慰謝料」が請求できることになっているのです。

すなわち被害者(死亡した方)に奥さんと子供がいる場合、


奥さんと子供は@被害者自身の慰謝料、逸失利益を被害者に代わって受取り、その他にA近親者固有の慰謝料を受け取ります。

・被害者の父母は、この場合は配偶者ではないので
A近親者固有の慰謝料のみを受け取ることになります。


この辺りは少し複雑ですが、全ての賠償金は関係者で分割しなければなりませんので、内訳を知っておく必要があるのです。


 →【関連項目】内縁の妻(夫)が死亡した場合はどうなる?

死亡した被害者が遺言書を作っていた場合

死亡した被害者が生前に遺言書を残していて、例えば妻に全財産を与える内容の遺言をしていた場合、どうなるでしょうか。

遺言書は法定相続よりも優先しますが、交通事故による死亡の場合には遺言書を作成した時点では損害賠償金は存在していなかったわけですから、遺言書の効力は損害賠償金までは及ばないのではないかと考えられています。

ですから損害賠償金については、法定相続分に従って相続人が相続することになります。


3.葬儀費用(財産的損害:実費)

お墓人はいずれ必ず死に、死ねば普通は葬儀をするものなのに、その費用を交通事故の加害者に負担させるべきかどうか、という考えもありました。

ですが直接被害者を死亡させた加害者に、せめて葬儀費用は負担させるのが当然という世間一般的な感情や常識などから、現在は加害者に葬儀費用を負担させています。

葬儀費用は原則として、130万円〜170万円の範囲で認められることが多いようです。
葬儀費用とは、病院からの死体運搬費、火葬費、葬儀屋に支払った費用、自動車代、お布施などです。

特別な事情があれば仏壇購入費、墓石建立費などが上記に加えて別途認められることがあります。

香典返しは、他から贈与を受けたものに対するお返しなので損害ではないということで、加害者には請求できないことになっています。

 →【関連項目】交通事故被害者のための貸付金制度、給付金制


4.死亡による逸失利益の算定式(財産的損害:将来の費用)

交通事故で被害者が死亡した場合、もし生きていたとしたら将来どれだけの収入(利益)を得られたかということが問題となりますが、この得られるはずだった利益のことを「逸失利益」といいます。

計算方法としては、基礎収入額から本人の生活費として一定割合を控除した額に、就労可能年数に対応するライプニッツ係数を乗じて算出します。

【基礎収入】×【1−生活費控除率】×【ライプニッツ係数】=【逸失利益】

 → 【関連項目】後遺障害を残して死亡した場合の逸失利益の計算は? 上記の式のそれぞれの意味を以下に説明します。


5.逸失利益の計算の考え方

基礎収入

基礎収入額は1年あたりの金額(年収)で考えます。原則として事故前の現実の収入額を基礎とします。
給与所得者(会社員)なら、賞与を含んだ事故前年の年収額、事業所得者は事故前年の申告所得額が基準です。
死亡していた人が年金を受給していた場合には、年金も基礎収入となり得ます

専業主婦・主夫(家事従事者)は?

女性の平均賃金で考えます。その場合は「全産業、全学歴、全年齢平均」を取ります。つまり全女性の平均ということです。

兼業主婦(パート収入有)は?

パートでの収入額と、女性の平均賃金とで高い方の金額で考えます。

若年者は?

事故時おおむね30歳未満の場合は、学生との均衡の点もあり全年齢平均の賃金で考えます。

子供は?

学生や生徒、幼児の場合は、賃金センサスの男女別全年齢平均賃金の金額を基礎収入額とすることが一般的です。

生活費控除

生活をするためには、給与などの収入から生活費を支払います。被害者が生きていたら当然生活費がかかるわけですから、損害賠償額から控除しなければなりません。そこで、逸失利益の算出にあたっては、収入から生活費を控除します。控除額は、被害者の立場によって次のように異なります。

【生活控除率】
被害者の立場 控除率
一家の支柱であった場合(被害者の世帯が主として被害者の収入によって生計を維持している) 30〜40%
女子であった場合(女児・主婦を含む) 30〜40%
男子単身者であった場合(男児を含む) 50%

労働能力喪失期間

労働能力喪失の対象期間は、基本的には
死亡から67歳まで」の年数とされています。被害者の地位、健康状態、能力などによってはそれを超えて考えることもあります。

67歳間近、あるいはそれを超える年齢で死亡した場合は「死亡時の年齢の平均余命の半分」の年数を労働能力喪失期間と考えます。

幼児や小中学生の場合は、「18歳から67歳までの49年間働ける」と考えて計算します。

労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

対象期間は年数ですが、中間利息を控除するので係数を掛けます。
逸失利益は「将来の損害」を今まとめて支払うというものなので、その利息分を差し引いて(控除して)支払うことになります。その中間利息控除係数として、ライプニッツ係数が使われます。

例えば「5年分」なら、年収の○%(等級によって違う)を単に5倍するのではなく、係数(5年は4.5797)を掛けるのです。

定年がある場合でも、定年後67歳までは再就職をして働くことが可能であると考えられています。ただし定年後の逸失利益については定年前までの収入額よりも減額されることもあります。


6.死亡慰謝料

死亡慰謝料は、死者の年齢・家族構成により、次の通りの請求ができます。また、事故態様・加害者の対応などにより増額が認められることもあります。

下記は「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(通称赤い本。裁判基準などとも呼ばれる)の基準で、これには民法711条所定の者(近親者)の慰謝料も含めた総額とされています。


→【関連項目】自賠責保険の基準での死亡慰謝料はこちら

【一般的な被害者の立場と慰謝料額】
被害者の立場 慰謝料額
一家の支柱の場合(被害者の収入によって被害者の世帯の生計が維持されている) 2800万円
一家の支柱に準ずる場合(主婦や養育を必要とする子供を持つ母親、高齢な父母や幼い兄弟を扶養している独身者) 2500万円
その他の場合(独身の男女、子供、幼児等) 2000万円〜2500万円

コラム
<遺族年金を死亡逸失利益として請求できるか>

各種公的給付(特に年金)を受けている方が交通事故で死亡してしまった時、生存していれば本来受け取れるはずだった各種給付が、死亡したために受け取れなくなってしまったことに対して「逸失利益」として請求できる場合があります。

例えば死亡した本人が給付を受けていた「老齢基礎年金」や「老齢厚生年金」は、「本来は平均余命までは生きていて、その分は受け取れたはずだ」として、逸失利益として請求できることになっています。

障害厚生年金(障害基礎年金も含む)や公務員の共済年金も同じで、逸失利益として請求できるという判例があります。

ですが「遺族年金」はダメだ(逸失利益とはならない)ということに、現状ではなっております。

遺族年金とは、厚生年金の被保険者や受給者(だんなさん)が死亡した場合に、奥さんに支払われる年金です。
この場合の奥さんが、交通事故で亡くなったときに、「生きていたらもらえたはずの遺族厚生年金を払え」とはいえない、ということです。

老齢厚生年金が逸失利益として賠償の対象になるのに、遺族厚生年金が賠償の対象とならないのは不思議な感じもします。

逸失利益の対象となるかならないかについては、原則として以下の考え方があるようです。

「当該(年金)給付が、労働対価(給料)の後払いのような性質と考えられる場合は逸失利益性がある。 当該(年金)給付が、受給権者の生活の継続を前提とするような社会保障的給付と考えられる場合(例えば生活保護など)は逸失利益性が無い」

要するに、老齢年金は過去に自分で保険料を支払った対価なので「もらえなければ賠償の対象となる」が、 生活保護のような社会保障的給付は、給付の基礎となる資金は被害者自身とは無関係に拠出されているものなので、「もらえなくても賠償の対象ではない」ということです。

この考えをもとに、遺族年金はそもそも受給者(奥さん)が保険料を負担していたものではないし、さらに再婚したり養子縁組をすれば給付が打ち切られる性質のものなので、社会保障的性質が強いと考えられ、逸失利益としての賠償の対象とならない、というのが一般的な判断となっています。


〜コラム〜
死者の慰謝料>

民法には「一身専属」という考えがあります。
「ある権利や義務が、その特定の人に専属して、他の人に相続や譲渡などにより移転するものではない」ということです。

例えば、老齢年金をもらっている人が亡くなった場合、その相続人は、亡くなった人が持っていた「年金をもらう権利」を相続することはできません。年金をもらう権利は一身専属的なものだからです。
(老齢年金については、権利ではなく「本人がもらうはずだったのに死亡したためもらえなかった」という逸失利益(お金)は請求できることになっています)

実は慰謝料(精神的な損害)を請求する権利についても、昔は一身専属だと考えられていました。
慰謝料をもらって自分の財産になった後に死亡したらその財産は相続するけど、慰謝料を請求しないまま死亡したら、相続人には死亡した人に代わって慰謝料を請求する権利はない、ということです。

ですが戦前の判例で、「被害者が死亡する前にそれ(慰謝料請求)を行使する意思を表明した場合に限って相続される」とされました。これは「残念事件」といって有名なのですが、被害者が「残念、残念」と言って死亡した場合には慰謝料を請求する意思を表明した、というものです。

その後の判例で「悔しい」は意思表明した、「助けて」は意思表明していない、など、いくつかの判例が出ました。

「・・・なんだそりゃ」

って感じですよね。
あんまり変なので、昭和42年の最高裁で判例が変更されました。
「死亡慰謝料は、被害者の死亡によって当然に発生し、これを放棄、免除する等特別の事情の認められない限り、被害者の相続人が相続する」

今では当然に、相続人が死者の慰謝料を相続したとして、損害賠償されています。


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