労災保険を使うことは被害者にとってメリットがありますので、使える状況であればぜひ使ってください。
交通事故で労災保険が関係してくるのは、業務上または通勤途上において交通事故で死傷した場合です。そのような場合に政府が労働者の保護のために、労働者災害補償保険法に基づいて、怪我をした人や遺族に対して給付を行うというものです。
主な給付は、治療費や休業補償、後遺障害が残った場合の障害給付、死亡した場合の遺族給付などです。
交通事故の怪我で仕事を休んだ場合、労災保険からは、4日目から基礎日額の6割が支払われます。残りの4割と、最初の3日分の休業損害は、加害者(通常はその保険会社)が被害者に支払います。
ところが労災保険からは、このほかにお見舞金のような形で「特別支給金」が支払われるのです。金額は基礎日額の2割分です。
ですから労災から休業補償が6割、相手方保険会社から4割、さらに特別支給金として2割もらえますから、最終的に被害者は、休業補償は12割(120%)もらえることになります。
必ず労災を使いましょう。
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後遺障害が残った場合、労災と自賠責とで同じ後遺障害等級が認定されると、労災よりも加害者側の任意保険から支払われる金額が大きいことが多いです。そうすると、わざわざ労災の方でも後遺障害の申請をして、後遺障害等級を取る作業をすることが無駄のように感じます。
ですが違うのです。
休業補償のときと同じように、後遺障害についても労災の障害一時金のほか、特別にお見舞金の形で「障害特別支給金」が労災保険からもらえるのです。
どちらの特別支給金も、加害者からの賠償金などと相殺されたり差し引かれたりしませんので、そのままもらえるものです(労災からのお見舞金ですから)。
後遺障害が残ってお得という表現はふさわしくないかもしれませんが、「労災保険を使うとつかわないときに比べてお得」という意味です。
重い後遺障害(7級以上)が認定された場合、労災保険は一時金ではなく「障害特別年金」となります。
上で説明したように、後遺障害分の補償自体は労災よりも相手方から支払われる金額の方が大きくなることが多いです。
ですから労災からは、メリット2.の「障害特別支給金」のみが支払われるということが多いのですが、7級以上になると年金となりますので、年間決まった金額(例えば7級なら基礎日額の131日分など)が死亡するまでずっともらえます。
ただ、示談のときには加害者側から一度にたくさんの賠償金を払ってもらっていますので、決まりによって年金の支給は7年待機した後、8年目から始まります。
例えば7級になって後遺障害分の賠償額が6000万円だった場合、加害者から6000万円が支払われれば本来はそれで終わりですが、労災を使っていたら8年後から、基礎日額の131日分の年金が、一生もらえるということです。
詳しくはこちらでシミュレーションし、説明しています↓
【関連項目】重篤な後遺症(7級以上)が残った場合の、障害年金(労災保険)
通勤災害、労働災害での交通事故の場合に労災保険を使うことは、少し手続きの手間が増えるということ以外は、メリットしかありません。
必ず労災保険を使うようにしましょう。
「労災と自賠責どちらを使うべきですか?」という質問を受けることがあります。通勤途中に交通事故に遭い、労災を使おうと思っていたのに会社などから「交通事故だから労災ではなく自賠責を使いなさい」などと言われたとのことです。
交通事故の治療に労災保険を使って医療費の支払いをした場合、労災は、医療機関に支払った医療費を後日相手方の自賠責保険や任意保険に請求します。
ですから、本人は労災を使って治療をしていますが、最終的に医療費を払うのは自賠責保険や任意保険です。労災を使っても自賠責は支払うのです。
つまり「労災を使うか、自賠責を使うか」ではなく「労災も自賠責も使うか、自賠責のみ使うか」の選択だということになります。
そのどちらがいいのかは、ここまで読んでいただいた方にはよくお分かりだと思います。
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平成30年9月28日の読売新聞に「(労災からの給付を受けていても)自賠責から被害者に全額支払い」という記事が出ていました。
最高裁で9月27日に出た判決のようです。
「損益相殺って?」のページでも説明しておりますが、被害者の請求先が相手の自賠責や、自分の労災保険や人身傷害保険などいくつかあっても、同じ項目について二重取りはできないのが原則です。
今回の最高裁判例は、その原則を覆すものなのか?と気になったので、その最高裁の判決を見てみました。
結論としては、原則(被害者の二重取りを防ぐ)を覆すという内容ではありませんでした。
この判例の内容を整理すると
@被害者は、センターラインを越えてきた加害車両との車同士の接触事故で、右腱板断裂後に右肩関節機能障害を残し、労災から療養補償給付(治療費)、休業補償給付及び傷害補償給付を受けました(最高裁判例にはこの部分の金額の記載はありませんでした)。
→このことで、労災保険法12級の4第1項により、給付した金額の限度で相手方自賠責保険への直接請求権は、国に移転します。
A被害者の主張としては、上記労災から給付を受けた分以外に、傷害で約303万円、後遺障害で290万円の損害があると主張しています。
→労災は「慰謝料」の概念がありませんので、上記被害者の「労災以外の分」は、通院の慰謝料や休業損害の4割分、後遺障害の慰謝料などと考えられます。
B上記@の被害者から労災に移転した直接請求権と、Aの被害者に残っている直接請求権のどちらが優先されて相手方の自賠責から支払われるのか、ということが争われた裁判でした。
つまり「被害者が労災と自賠責から二重取りできるのかどうか」ではなく、自賠責保険の限度額は限られているので(今回は後遺障害等級12級なので傷害分120万円と後遺障害12級の224万円の合計344万円)、「労災(国)も被害者もどちらにも相手方自賠責に対する正当な請求権があるが、そのどちらが優先されるのか」というものでした。
相手方自賠責保険会社は「労災の請求権のある金額と、被害者の労災以外の損害額を案分して自賠責から双方に支払う」と主張していたようですが、結局は掲題のとおり「被害者を優先して全額(344万円)被害者に支払う」ということでした。これは1審判決をそのまま支持したものです。
考えてみれば、自動車損害賠償保障法(自賠法)や自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)は被害者保護を図ることが目的で作られていますから、被害者への補償は、国の請求権と同等などではなく優先されるのは当然ともいえます。
とはいえ最高裁の判例が出た以上、今後はこの運用が一般的になると思われます。つまり「自賠責の限られた保険金を被害者と国とで取り合った場合は被害者が優先される」ということです。
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