こちらでは、後遺障害が残った場合の逸失利益の計算方法、意味などを説明しています。
交通事故で被害者が死亡した場合、
もし生きていたとしたら将来どれだけの収入(利益)を得られたか
ということが問題となりますが、この得られるはずだった利益のことを「逸失利益」といいます。
後遺障害が残った場合にも事故前と同じように働くことが困難になりますので、「後遺障害のために将来の労働能力が何パーセントか落ちる」と考えます。この後遺障害が無ければ得られたであろう収入が後遺障害による逸失利益で、被害者が慰謝料などとともに損害賠償を受ける一つの項目です。
「逸失利益は将来の休業損害」と考えると分かりやすいかもしれません。
。
●後遺障害については慰謝料も請求できます → 後遺症慰謝料について
●死亡事故の場合はこちらをご覧ください → 死亡事故の損害賠償
「年収の何%かが、今後何年かに渡って失われる」というのが基本的な考え方で、大人の場合は次の通りの算式で計算します。(18歳未満の未就労者の計算は次項で説明します)
逸失利益 = @基礎収入額 × A労働能力喪失率 × B対象年数の係数 |
それぞれの項目について以下に説明します。
基礎収入額は1年あたりの金額(年収)で考えます。原則として事故前の現実の収入額を基礎とします。
給与所得者(会社員)なら、賞与を含んだ事故前年の年収額、事業所得者は事故前年の申告所得額が基準です。
専業主婦・主夫(家事従事者)は?
|
労働能力喪失率は下記の表のように後遺障害等級別に決まっており、裁判でも多くの場合はこの喪失率が採用されています。
例えば、14級なら今後は事故前に比べて5%(5/100)労働能力が下がる、と考えて計算するということです。
障害等級 | 労働能力喪失率 | 障害等級 | 労働能力喪失率 |
第1級 | 100/100 | 第8級 | 45/100 |
第2級 | 100/100 | 第9級 | 35/100 |
第3級 | 100/100 | 第10級 | 27/100 |
第4級 | 92/100 | 第11級 | 20/100 |
第5級 | 79/100 | 第12級 | 14/100 |
第6級 | 67/100 | 第13級 | 9/100 |
第7級 | 56/100 | 第14級 | 5/100 |
労働能力喪失の対象期間は、基本的には
「症状固定から67歳まで」の年数とされています。被害者の地位、健康状態、能力などによってはそれを超えて考えることもあります。
67歳間近、あるいはそれを超える年齢で症状固定した場合は
「症状固定時の年齢の平均余命の半分」の年数を労働能力喪失期間と考えます。
ただし、むち打ちで他覚的所見のない症状など、障害の内容によっては5年(14級9号の場合など)、10年(12級13号の場合など)など期限を区切って考えることもあります。
対象期間は年数ですが、中間利息を控除するので係数を掛けます。
逸失利益は「将来の損害」を今まとめて支払うというものなので、その利息分を差し引いて(控除して)支払うことになります。その中間利息控除係数として、ライプニッツ係数が使われます。
例えば「5年分」なら、年収の○%(等級によって違う)を単に5倍するのではなく、係数(5年は4.5797)を掛けるのです。
ーーーーーーもっと詳しくーーーーーー ●逸失利益はなぜ67歳までか? ●損害賠償で男女に差? ●赤字事業の個人事業主の逸失利益はどう考える? ●ホステスの逸失利益はどう考える? ●後遺障害を残して死亡した場合の逸失利益は? ●個人事業主が事故後に修正申告をした場合は? |
被害者が症状固定時に18歳未満の未就労者だった場合の計算方法は、上記逸失利益の算定式のうち、
18歳未満の逸失利益 |
★よく分からない!自分の場合はどうなる? → 直接質問してみましょう!
症状固定時45歳、年収600万円の会社員男性が、交通事故に遭って右膝関節付近を骨折したのち関節可動域制限が残り、後遺障害等級10級11号が認定された場合
●逸失利益=600万円(年収)×27%(10級の労働能力喪失率)×15.9369(45歳から67歳までの22年間に対するライプニッツ係数)=2581万7778円
症状固定時35歳の専業主婦が自家用車に乗車中に追突事故に遭い、頚椎捻挫で後遺障害等級14級9号が認定された場合
※頚椎捻挫での14級9号では、対象期間(労働能力喪失期間)は長くても5年となります。
●逸失利益=364万1200円(基礎収入・賃金センサス平成26年女性全年齢平均)×5%(14級の労働能力喪失率)×4.5797(5年間に対するライプニッツ係数)=83万3780円
●逸失利益=381万9700円(基礎収入・賃金センサス平成26年女性35〜39歳平均)×5%(労働能力喪失率)×4.5797(5年間に対するライプニッツ係数)=87万4654円
このような状態であれば、被害者としては高額な方で請求を出すべきでしょう。
症状固定時12歳の女児が歩行中に車にはねられ、頭部外傷により高次脳機能障害を残して後遺障害等級7級4号が認定された場合
●逸失利益=479万6800円(基礎収入・賃金センサス平成26年男女全年齢平均)×56%(7級の労働能力喪失率)×21.3572(67歳までの55年の係数26.7744−18歳までの6年の係数5.4172)=5736万9881円
逸失利益とは、後遺症が残ったために将来の労働能力(=収入)が下がるので、その分を損害として考える、というものです。
ところが後遺障害が残った(後遺障害等級が認定された)という場合でも事故前と比べて減収していないことがあります。
このように実際に減収が無くても逸失利益が認められるのかどうかが問題となることがあります。
現在基準として考えられているのは、昭和56年12月22日の最高裁の判決です。
この判決を要約すると
「後遺症の程度が比較的軽微で、被害者の職業の性質からみて現在又は将来の減収が認められなければ、特段の事情が無い限り、逸失利益は認められない」
ということです。減収が無い場合は特段の事情が無ければ逸失利益を認めない、ということは、特段の事情があれば認める、ということですから、「特段の事情」とは何かが重要となります。
この判決では、特段の事情とは以下のようなことが挙げられています。
特段の事情 |
つまり減収のない場合の逸失利益でもめたときには以下のようなことを立証していけばいいと考えられます。
立証項目
|
実際の被害者の立場からすれば、後遺症による逸失利益は、将来にわたる長期の損害を予測するわけですから、労働能力が下がっていれば現在減収が無いとしても、長期的には雇用主や取引先から信用を失い、それが昇進・昇給や、取引先の維持や拡張に影響を与える可能性は否定できません。
また現在の職場は周りの理解もあってカバーしてくれているかもしれませんが、転職するとなると不利益をこうむることも考えられます。
このような不利益の蓋然性を考慮して、被害者としては後遺障害等級が認定されれば、減収が無くても原則として逸失利益はある、考えて行動していくべきです。
(1)第一には「正当な後遺障害等級認定を受けること」。これに尽きると言っても過言ではありません。
同じ年収でも、等級によって「将来喪失するとされる割合」がかなり違います。そして後遺障害等級は、認定申請の仕方やそのための事前の準備で、かなり変わってくるのです。これは非常に重要なことです。
→ 正当な後遺障害等級を取るためにすること
(2)次に「基礎収入額は正しいか」を確認しましょう。
会社員や公務員など、給与所得者ならほぼ問題はないはずですが、問題が出てくるのは事業所得者や主婦(主夫)です。
事業所得者であれば通常は事故前年の確定申告額による収入から固定経費以外の経費を差し引いた金額を基準としますが、余計な経費も差し引かれてより低い金額を「基礎収入額」とした計算で保険会社から提示がされていないか、などは注意するポイントです。
(3)また「対象期間(労働能力喪失期間)は妥当か」の確認も重要です。
通常は「症状固定時から67歳までの年数」で計算することが多いですが、むち打ちの14級や12級であればだいたいは決まった期間(14級なら5年とか12級なら10年など)で考えます。この年数が3年とか2年などになっていないかは要注意です。
また、被害者が67歳を超えている、あるいはそれに近い年齢の場合はどう考えるのかも把握して、保険会社の提示案をチェックできるようにしておきましょう。
(高齢の被害者の場合は「症状固定時の年齢の平均余命の半分の年数」で計算します)
気になるところや心配があれば、このページの下の方にある「無料メール相談ボタン」を押して、お問い合わせください。具体的にアドバイスいたします。
症状固定とは、医学的な面からは「これ以上治療を続けても大幅な改善が見込めない状態になった状態」とされています。
そして症状固定時に残存する障害を後遺障害(後遺症)といいます。
●症状固定について詳しく → 症状固定とは何か、誰が決めるのか
※各部位別のポイントはこちら↓
●眼の障害 ●耳の障害 ●鼻の障害 ●口の障害 ●醜状障害 |
●神経系統又は精神の障害 ●内蔵及び生殖器障害 ●脊柱及びその他の体幹骨の障害 ●上肢の障害 ●下肢の障害 |
関連項目 |