交通事故による怪我が完治、または症状固定したのち、加害者側の保険会社に損害賠償請求をする場合、それまでもし労災保険から給付を受けていたとしたら、その労災保険からの給付分は控除して請求します。
例えば月給30万円の人が事故による怪我で1か月仕事を休んだ場合、完治して加害者側と示談交渉をする時点では、労災保険から休業補償として30万円の60%で「18万円」が既に支払われていることが多いです。
このような場合に被害者が休業損害の請求をするとしたら、1か月30万円のうち、労災保険から給付を受けている18万円を控除して、12万円を加害者側に損害賠償請求することになります。
つまり「加害者側からの損害賠償金と、労災保険からの給付の二重取得はできない」ということです。
ところで不幸にして後遺障害が残ったとき、労災保険を使っていた場合には、後遺障害等級の申請を労災保険と自賠責保険(自動車保険)の両方に行います。
事故前に50歳で年収が800万円(給付基礎日額は18,000円とします)だったある男性被害者が、仮に労災も自賠責も、どちらも「後遺障害7級」が認定されたとします。
自賠責保険からは7級だと1051万円支払われますが、裁判所の基準などで考えると、
後遺症慰謝料 1000万円
逸失利益 5050万円(=800万×56%×11.274)
で、合計約6000万円となりますので、加害者側と被害者側で合意すれば、後遺障害部分だけで6000万円が支払われます。
一方、同時に労災保険の方でも7級が認定されています。
労災保険の7級は「障害補償年金(障害年金)」となり、1年間で給付基礎日額の131日分(約236万円)が支払われることになっています。
こちらは年金なので、被害者は死亡するまでもらえることになります。
・加害者からの損害賠償金は6000万円(一時金)
・労災保険からは毎年236万円を、死亡するまで
ただ先ほど「加害者側からの損害賠償金と、労災保険からの給付の二重取得ができない」と説明しましたが、このように労災の方が年金になった場合、どう考えるのでしょうか。
労災から毎年236万円もらい、それが6000万円になるのは26年後です。
「加害者から6000万円をもらい、労災保険からの障害補償年金の支給は26年後から始まる?」
「労災保険からの支給を始め、26年以内に死亡したら6000万円に達しないので、その差額を加害者が支払う?」
「加害者からの賠償は67歳までということになっているから、68歳から労災の支給が始まる?」
実際の取り扱いは、
「被害者が加害者から損害賠償された場合(上の例では6000万円)、その後労災保険からの7級に対する障害補償年金は7年を経過した後に支払われる」
ということになります。
※この待機期間は、以前は7年ではなく3年でした。
障害補償年金は7年分で1,652万円(236万円×7年)でしかありませんが、示談の時に6000万円もらっている被害者に対して、労災保険の障害補償年金は8年目からは支払われるということです。
平成25年3月29日の「都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知」に基づき、平成25年4月1日以降の事故について適用されております。
平成25年3月31日までの事故については支払待機期間(支払い停止期間)は3年のままです。
この対応のもととなる条文は以下のとおり。
労災保険法
第十二条の四
2 前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。
上の例でいうと、7年分の1,652万円は控除されますが、それ以降は既に加害者から支払われている損害賠償金に加え、労災保険の障害補償年金と、二重取りすることになります。それもやむを得ない、ということのようです。
このようなこともありますので、業務上あるいは通院途上の交通事故では、必ず労災保険を使うようにしましょう。
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