損益相殺は「治療中などに先に労災などから支給を受けていたら加害者側から支払われる賠償金から差し引く」というものですが、被害者に過失もあって過失相殺されるような案件の場合、加害者側から支払われる損害賠償金から相殺される(差し引かれる)順番が
「損益→過失」か
「過失→損益」か
でもらえる金額が変わってきます。
これらのことについてみていきたいと思います。
被害者が、加害者側の保険会社と損害賠償金額の話し合い(示談交渉)をするとき、過失相殺(過失割合)や既払い金がある場合は、以下のような順序で考えます。
1.被害者の総損害額を計算する
↓
2.過失割合がある場合は、過失相殺する(損害額から過失割合分を差し引く)
↓
3.既払い金額を差し引く
↓
4.残った分が今後被害者に支払われる
具体的には以下のようになります。
1.被害者の総損害額を出して合計します。例えば治療費や休業損害、慰謝料などを合わせた総損害額が1000万円だったとします。
↓
2.被害者に過失がある場合、総損害額から被害者の過失分を差し引きます(過失相殺)。例えば被害者の過失が30%だったとすると、総損害額1000万円のうちの300万円は被害者が自分で負担しなければなりません。差し引いて、700万円が「被害者が加害者に請求できる金額」ということになります。
↓
3.治療費はこれまで加害者側の保険会社から病院に直接支払ってもらっているような場合、「既払い額」として差し引きます。例えば治療費が200万円かかっていたとすると、700万円から200万円を差し引きます。
↓
4.700万円から200万円を差し引いた、500万円が、「今後加害者側から被害者に支払われる金額」となります。
「被害者に30%の過失がある」というこの例でいうと、治療している最中に治療費として保険会社から病院に200万円が支払われていますが、そもそも治療費200万円のうちの30%(60万円)は被害者が支払わなくてはならないものです。
ですから「過失相殺後に治療費を差し引く(控除する)」というのは分かると思います。
ですが、このように相手側保険会社から損害の賠償として支払われたものを「過失相殺後に控除する(差し引く)」のは当然ですが、公的あるいは私的給付(労災、健保、生命保険など)の中には、「過失相殺前に控除するべきだ」というものがあります。
例えば上の例でいうと、治療費の200万円を健康保険を使って治療をしていた場合には、上記の「過失相殺後に控除」ではなく、「過失相殺前に控除」というように変わります。
1.損害額1000万円から
2.先に治療費200万円を控除します(1000-200=800万)
3.これを30%、過失相殺します。(800-(800×30%)=560万円)
560万円と、先ほどの500万円と比べると少しもらえる金額が増えています。
このように、過失相殺と損益相殺がある場合、その先後関係は重要になってくるのです。
(この差額の60万円は、健康保険が負担しています)。
上では損益相殺を「過失相殺する前に控除するか」「過失相殺した後に控除するか」によって、被害者が受け取る金額(手取り)が変わってくるという説明をしました。
結論としては「被害者にとっては損益相殺は、過失相殺前に控除された方がお得」ということになりました。
それでは一般的に、公的、私的給付のうち、どのようなものが過失相殺前に控除されるのか、過失相殺後に控除されるのか、ということを見てみます。
1.健康保険(療養給付)
2.国民年金、厚生年金(老齢年金)
3.所得補償保険
1.自賠責保険及び加害者加入の任意保険
1.労災保険
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