赤字事業を営む個人事業主の基礎収入額はどう考えるのでしょうか
事故の怪我で被害者に後遺障害が残った場合、将来はその後遺障害のために事故前と同じように働くことが困難になります。
そこで「後遺障害のために将来の労働能力が何パーセントか落ちる」と考え、この「後遺障害が無ければ得られたであろう収入」が後遺障害による逸失利益で、被害者が慰謝料などとともに損害賠償を受ける一つの項目です。
金額に換算する方法としては、「年収の何パーセントかが、今後何年かにわたって失われる」というのが基本的な考え方で、以下のような計算式になります。
逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間 |
労働能力喪失率は、後遺障害等級によって決まります。労働能力喪失期間は、原則的には症状固定から67歳までの年数に対応する「ライプニッツ係数」です。
それでは基礎収入額はどう考えるのでしょうか。
基礎収入額は原則として事故の前年の年収で考えます。逸失利益は将来のことを今想像して決めるという、いうなればフィクションですが、採用するのは現実の数値(金額)なのです。
年収は会社員なら源泉徴収票などで確認できますし、個人事業主(自営業者)は確定申告書などで確認します。
ただ個人事業の年収は、売り上げから諸経費を差し引いた「所得」で考えます。所得の金額に労働能力喪失率やライプニッツ係数をかけるのです。
それではこの所得がマイナス、つまりその事業が赤字だった場合は、どうするのでしょうか。
年収がゼロ以下だから逸失利益はもらえない?
そんなことはありませんが、赤字事業を営む個人事業主が、将来、基礎収入額を得られる蓋然性が認められるかどうか、つまり今は赤字だけど将来は黒字になってきちんと所得を得られるような説明ができるかどうか、という話になってきます。
この蓋然性の判断は、被害者の年齢、事業内容、就業状況、収入状況や、これまでの売り上げの推移を踏まえて事業を取り巻く環境なども勘案して、それぞれ個別に判断する必要があります。
金額としては、将来のことなので分かりませんが、総務省や厚生労働省が統計を取っている賃金センサスによる平均賃金は、一応の目安とされます。
蓋然性の一つの考え方です。
若年の個人事業主の場合は、逸失利益計算の要素となる「労働能力喪失期間」が相当長くなることが考えられますので、今後もずっと事故時の赤字事業に従事し続けることを必ずしも前提とせずに、平均賃金程度の収入を得られる蓋然性がある、と考えても不自然ではないでしょう。
さらに、脱サラして事業を始めたばかりで実績が十分ではないような場合は、その事業の収支の状況で基礎収入額を決めることは適切ではないことも多く、平均賃金や、サラリーマン時代の収入を基礎として考える場合もあります。
一方、ある程度の年配の個人事業主の場合、これまでの事業の推移や赤字の期間などにより、継続的な赤字状態になっているような場合などには、今後平均賃金を得られる蓋然性を認定することは難しい、ということもあり得ます。
被害者が逸失利益の内容や金額を交渉する相手は、主に加害者の保険会社でしょう。
赤字事業の場合、保険会社は裁判官以上に被害者の希望額を認めることには厳しいと思います。ですが上記のことなどを理解した上で、必要があれば過去の裁判例を探したり、場合によっては行政書士や弁護士のアドバイスを受けながら、なんとか「正当な」賠償額を勝ち取っていただきたいと思います。
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