後遺障害が残った場合の逸失利益の考え方は、基本的には以下の様な計算式で算出されます。
逸失利益(円)=基礎収入額(円)×労働能力喪失率(%)×対象年数の係数 |
逸失利益は「将来得られるはずだったのに得られなくなったと思われる利益」のことで、あくまでフィクションであり、それを想定するためにいくつかのことを取り決めております。
@基礎収入額は、将来のことは分からないのでとりあえず事故直前の現実収入を採用しましょう。
A労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて自賠責支払い基準の別表Tの労働能力喪失率を使いましょう。
B対象期間(労働能力喪失期間)は、捻挫や打撲など以外の「もう元には戻らない後遺障害」や死亡の場合は67歳まで働けたであろう、と考えましょう。
この3点を前提として逸失利益が決まってきます。
ですが職業によっては、流行に左右されたり、あるいは年齢的な制限があるなどして現在の収入が67歳までずっと得られ続けると考えることに無理があることがあります。
具体的な職業で言うと、ホステスやホスト、俳優やタレント、スポーツ選手ですが、裁判例では上記の「取り決め」に関わらず、基礎収入額や対象期間について柔軟に考えることが多いようです。
今回は、その中でも特に事例の多いホステスの逸失利益に関して、裁判例での基礎収入額と対象年数の考え方について検討してみます。
全体的にいえるのは、交通事故に遭った時期の収入が平均賃金より多かった場合に「ある時期まではホステスとしての現実に得ていた年収で計算」「それ以降は平均賃金(年齢別や全年齢平均など)を年収として計算」されることが多いようです。
@死亡時年齢:28歳(女性・ホステス)
A労働能力喪失の対象期間:28歳から67歳まで
B基礎収入額:33歳まではホステスとしての収入(691万4268円)、その後67歳までは賃金センサス女子学歴計30〜34歳の平均賃金(370万4300円)
※原告(被害者)側は、死亡した女性は67歳までホステスとして働いたはずだと主張し、被告(加害者)側は、女性がホステスとして働けたのはせいぜい30歳までだと主張しましたが、裁判所は33歳までぐらいはホステスとして働く蓋然性があると判断しました。
@症状固定時年齢:22歳(女性・ホステス・右股関節脱臼等、醜状痕で7級相当)
A労働能力喪失の対象期間:22歳から67歳まで
B基礎収入額:35歳まではホステスとしての収入(477万1280円)、その後67歳までは賃金センサス全労働者全年齢平均賃金(343万4400円)
※裁判所は、本件の被害者がこれまで1年以上ホステスを続けており、今後も続ける意向があったから、少なくとも35歳まではホステスとして働いたであろうと判断しました。
@症状固定時年齢:40歳(女性・ホステス、女優、主婦・肩甲部痛等で併合11級)
A対象期間:40歳から67歳まで
B基礎収入額:45歳までは女優およびホステス業の収入(日額2万421円)、その後60歳までは賃金センサス全労働者全年齢平均賃金(年額487万9700円)、その後67歳までは賃金センサス女子学歴計全年齢平均賃金(329万4200円)
※裁判所の判断は、ホステス業、女優は厳しい経済不況の下、景気により売り上げが変動するものであり、クラブの経営は難しく、実際に被害者が勤務していたクラブも閉店していることなどから、67歳まで現在の収入が維持できる蓋然性は認めがたい、ということでした。
@症状固定時年齢:46歳(女性・昼は事務員で夜はホステス、脊柱変形障害で併合10級)
A対象期間:46歳から67歳まで
B基礎収入額:51歳まではホステスとしての収入(年額199万800円)を含む収入、その後67歳までは賃金センサス女子高卒45〜49歳の平均賃金(年額351万7300円)
※裁判所は、今後も少なくとも5年間はホステスとして稼働し、事故前と同程度の収入を得た蓋然性があるが、その後は体力の低下などによって収入が下がることは避けられないだろう、と判断してそれ以降は高卒の平均賃金と判断しました。
@症状固定時年齢:47歳(女性・会社員件ホステス、肝破裂等で併合10級)
A対象期間:47歳から67歳まで
B基礎収入額:賃金センサス女子学歴計全年齢平均賃金(年額340万2100円)
※原告(被害者)は基礎収入額をホステスとしての収入を含む月額34万6000円)を主張していましたが、裁判所は今後20年間にわたって月額34万6000円を得られる蓋然性がないとして、平均賃金を採用しました。
@死亡時年齢:25歳(女性・ホステス)
A対象期間:67歳まで
B基礎収入額:30歳までホステスとしての収入(年額432万1600円)、その後67歳までは賃金センサス女子学歴計30〜34歳の平均賃金(年額384万4600円)
※裁判所は、ホステスという仕事の性質上、その勤務を長期間にわたって継続し、高収入を維持する蓋然性を認めるのは困難だが、今後5年ぐらいは続けたと考えてもいいでしょう、という判断をしました。
これらの例は全て死亡か元に戻らない後遺障害の事例で、通常なら労働能力喪失期間は67歳まで認められる事例です。
ホステスでも労働能力喪失の対象期間はほぼ67歳まで認められていますが、平均よりも高収入となるホステスとしての収入額は、症状固定(または死亡)から一定期間しか認められないことが多いようです。
その一定期間がどの程度かということは、20〜30代の若い世代、つまり今後の人生が長い人たちよりも、40〜50代の、これまで長くホステスを続けてきた人たちの方がホステスとしての収入の期間が長めに認められる印象です。
被害者の方はみんなが裁判をするわけではないと思いますが、保険会社との示談交渉の際にも、参考にしていただければと思います。
関連項目 |