会社員(サラリーマン)以外の、例えば個人で事業をしている個人事業主が事故の被害者になった場合に、休業損害についてどう考えてどう計算するのかについて、下記のページで説明しました。
→ 「サラリーマン以外の休業損害は?」
簡単に言えば、売り上げから諸経費を引いた「所得」に関し、事故の前年と事故に遭って怪我をして仕事を休んだ当年の金額を比較して、減った金額を休業損害とする、ということです。
実際には、前年に比べて売り上げや所得が減ったのは、事故の怪我で仕事を休んだことが原因なのか、それとも別の要因で減ったのかの判断は、難しいことも多いのですが、原理原則としては上記のようになります。
例えば、平成30年に事故に遭った個人事業主が、半年間休業せざるを得なくなったとして、その平成29年と平成30年の収支が以下のようだったとします。(単位万円)
【例1】
平成29年 | 平成30年 | |||
売り上げ | 1000 | 売り上げ | 500 | |
売上原価 | 300 | 売上原価 | 150 | |
固定経費 | 200 | 固定経費 | 200 | |
流動経費 | 200 | 流動経費 | 100 | |
所得 | 300 | 所得 | 50 |
平成30年は1年のうちの半分を休んだので、売り上げや売上原価や流動経費は半分になりますが、固定経費(家賃や保険料など)は休業していても変わらないので、所得は50となります。事故前年との差額は250万円です。
これが、所得の減少額となり、休業損害の対象と考えられます。
ですが実際には、上でも説明したように個人事業の売り上げや所得額は、事故が無くてもその年によって変動することが一般的ですから、この250万円のうちのどの程度が事故での休業による部分なのか、という議論がなされることはよくあることです。
従って、この具体的な減収額を踏まえて、被害者の病状や事業の内容等を勘案し、事故との相当因果関係が認められる範囲を見極める必要があります。
ともあれ、これが個人事業主(サラリーマン以外)の休業損害の考え方となります。
赤字の場合は、以下の「例2」のような状態が考えられます。
(平成30年は事故に遭って半年間休業したとする)
【例2】
平成29年 | 平成30年 | |||
売り上げ | 1000 | 売り上げ | 500 | |
売上原価 | 500 | 売上原価 | 250 | |
固定経費 | 300 | 固定経費 | 300 | |
流動経費 | 400 | 流動経費 | 200 | |
所得 | -200 | 所得 | -250 |
固定経費(家賃や保険料など)は休業していてもかかりますから、変化ありませんが、売り上げや売上原価、流動経費はそれぞれ半分となり、その結果所得は−200万円から−250万円と、損失額が拡大しています。
事故で仕事ができなかった結果、損失が大きくなったので、その差額を休業損害額と考えましょう、というものです。この例でいうと差額の50万円が休業損害額ということになります。
ただ裁判例によっては、「例2」の事故前の数値(平成29年)は所得が-200万円だが固定経費に掛かった300万円を加算すればプラス100万円だと考え、その100万円に休業期間の割合である5割をかけた「50万円」が休業損害だ、という考え方を示したものもあります。
場合によっては、売り上げに対する経費の割合がもっと大きいケースもあり得ます。下記の「例3」です。
【例3】
平成29年 | 平成30年 | |||
売り上げ | 1000 | 売り上げ | 500 | |
売上原価 | 800 | 売上原価 | 400 | |
固定経費 | 600 | 固定経費 | 600 | |
流動経費 | 800 | 流動経費 | 400 | |
所得 | -1200 | 所得 | -900 |
固定経費以外は半分になった結果、休業したことにより赤字額が縮小したものです。赤字事業を営む者は、休業することによって損失を免れるという現実があります。
このような場合の考え方は非常に難しく、判例でも一定しているとはいいがたい状態のようです。
休業による損害はなかったと考える、ということもあり得るかもしれませんが、例えば無駄になった固定経費のみを損害と考えて、それに休業期間の割合をかけて算出する、ということもあるようです。
このように、裁判例でも様々な算出方法、認定結果があるようなので、自分の場合はどうなのかということについては、これらのことを理解したうえで自分にとって有利となる考え方などを見つけ出していく必要があると思います。
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