前回「搭乗中とはどういう状態か」「搭乗中でなくても搭乗者傷害保険などがでる」というお話をしました。
→「搭乗中とはなにか」
そして最高裁の判例で「搭乗中かどうか、などといった些細なことにこだわっている場合ではなく、相当因果関係があれば保険金の支払いは拒否できませんよ」という判断が出たことを紹介しました。
そうすると、搭乗中ではないけど死亡と自損事故の相当因果関係があるかどうかについてもめることも予想されるのですが、それが問題となった判例がありましたのでご紹介します。
被害者は80歳男性(仮に「A」とします)で、深夜に車を運転していて車ごと田んぼに転落する自損事故を起こしました。
その後男性は車外に出て、車の周りを歩いた後、車から4メートルほど離れた場所で転倒し、意識不明の状態で5〜6時間後に発見されましたが、この時に泥水を吸い込んだために肺炎をおこし、40日後に死亡したという事故です。
この事故で遺族は、泥水を吸い込んで肺炎になり死亡したことは(搭乗中とは言えないものの)事故との因果関係があるとして、加入していた自動車共済に自損事故傷害共済を請求しました。
これに対してなんと1審(東京地裁)は、「Aの肺炎による死亡と事故との間に因果関係がある」として、共済金の支払いを命じました。
その理由は
「本件自動車共済契約に定める『A車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故』により傷害を被り、その『直接の結果として』死亡した場合に当たり、相当因果関係が認められる」
とのことでした。
ですがこの判決は、2審で覆され、東京高裁は「Aの肺炎による死亡と事故との間に因果関係はない」としております。
2審の判決では、搭乗中と同視し得るほどの因果関係には
「@Aが身体の損傷を受けかねない切迫した危険を避けるために車外に避難せざるを得ない状況に置かれ
Aその避難行動は避難経路も含めて上記危険にさらされた行動として自然なものであり
BAの死亡が本件事故と時間的にも場所的にも近接して生じていたこと
のいずれも認められる必要がある」
との最高裁の例示を示し、そのうえで本件は
「ギアはパーキングに入っている状態」で「エンジンはかかっており、前照灯は点灯」「目だった破損部位が認められず」、「脱出後助手席側で倒れていた」ことなどから前記@〜Bに該当せず、相当因果関係は認められない、としました。
その後は最高裁に持ち込みましたが受理されず、高裁の判決が確定しています。
普通に考えてみると、東京高裁の判決が普通なように思いますが、一時はこのような事故でも運行と肺炎での死亡との相当因果関係がある、という判決が出ておりますので、非常に微妙なことなのだということを感じます。
もし、自分自身の件ではどうなのかといったことで迷ったり悩んだりされていましたら、遠慮なくお問い合わせください。
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